Dendrobium victoria-reginae

 Negros島やミンダナオ島の標高1,200m以上の雲霧林に生息するフィリピン固有種で、青花を代表するDen. victoria-reginaeが現在開花中です。当サイトでの本種はミンダナオ島からで3年ほど前に入荷した株です。温室の外は酷暑が続きますが、クール室は日中でも25℃で涼しく人よりも待遇の良い環境に居ます。夜間平均温度が20℃以下に設定できれば昼間は32℃程になる中温室で問題はありません。現在100株近くをヘゴ板、炭化コルク、木製バスケットなどに分けた植え付けをしており、下写真の開花株はバスケットです。本種の疑似バルブは下垂タイプのためポット植えは適しません。現地でよく見る植え付けは、ヘゴ板にココナッツの繊維で根を団子状にすっぽりと包んでいます。ミズゴケを使用していないのは、信じがたいことですがフィリピンではミズゴケの方がヘゴ板に比べて遥かに高価なためです。一方、小さなプラスチックバスケットにココナッツ繊維のみの植付けも見られますがこうした植え付けは販売用の簡易的なもので、どれも元気がありません。 基本的にマニラ周辺の気温では本種は暑すぎて生きていけません。Tagaytayでも現状維持が精々です。このためラン園にとっては入荷即販売が必要で、展示会では単品でも買えますが、販売業者が購入する場合は少なくとも100株単位が条件となり10-20株程度ではまず取り扱ってくれません。中温タイプのデンドロビウムはほぼ全てがこうした取引となります。 尤も日本国内の販売価格並で良いと言えば話は別でしょうが。なお、本種の開花はorchidspecies.comでは晩春とされていますが、当サイトでは夏季が多いもののの不定期で、これだけの数を栽培していると何時もどこかで1-2輪は開花しています。環境に合うと次々と茎からの栄養芽で増えます。このためその花色から人気のある本種は毎年それなりの数を販売しているものの100株は一向に減りません。こうしたこともあり現在本サイトでは野生栽培株にもかかわらず1株3-4バルブ(茎)で1,500円で、株サイズを考えると通常市場価格の1/3以下です。

Den. victoria-reginae

新しい植え付け方法によるAerides leeanaのその後

 Aerides leeanaは同属の中では極めて入手難な種の一つで、確か2016年の東京ドームラン展にPurificacion Orchidが花付株を10株ほど出品し完売していました。これまで3年近く現地ラン園に発注していましたがようやく今年2月に50株ほど纏まって入荷し、3月に植え付けを完了しました。トレーに入れた多数の花の付いた植え付け前の株を2月の歳月記に掲載し、また4月歳月記では題目「従来の習慣とは異なる植付け」にて、炭化コルクへの植え付けを取り上げました。植付けから5か月が経過し現在の株の状態が下の写真です。

 本サイトでのAeridesは、通常行われるベアールート吊るし、あるいはバルボフィラムやデンドロビウムのように根をコルクに乗せその上からミズゴケで覆う取付ではなく、炭化コルク上に薄く一様にミズゴケを敷き、その上に根を置いて1mm径のアルミ線で縛っているだけです。下写真1からは全ての株で若い芽(明るい緑色)が勢いよく伸長していることが分かります。一部を拡大した画像が写真2と写真3です。写真2はAerides leeana、写真3は大きなAerides odorata albaです。また写真4はAerides leeanaの下部を撮影したもので、多数の太い根が空中に伸びていますす。

 これまでAeridesやVandaなどの属種の植え付けは、根が通風のある気相を必要とする種と、乾湿のサイクル(濡れた状態と乾燥状態が繰り返される)を嫌う種があり、前者は小さなプラスチックバスケットに株を固定しべアールートで空中に吊したり、後者は乾燥を避けるため大粒のバークを用いてポットに植える方法が一般的です。しかし前者は国内の環境では湿度不足気味となり株が徐々に痩せていくリスクが、一方後者は限られたポット内では空気の流れが無く、かん水量や植え込み材の粒度によっては根腐れや、根の伸長が阻害され、株の成長に勢いがないとか花付が悪いなど、また販売する立場からは、株の形状とポットのサイズに依るものの他の属種と共に梱包するには取扱い難いことなどの問題があります。現地では湿度が高くAerides leeanaを含めAerides属はほぼ全種がベアールート栽培で、ポット植えは見られません。そこで、こうした問題を軽減するためコルク付けにすることで一部の根の表皮をミズゴケ上に置き、植え付け時は根の表皮の5割程がミズゴケに接触しているものの全ての根の表皮の一部あるいは全面は動きのある空気に触れさせ大きな気相を確保します。またコルク等の板付けは水を幾らかけても一定量しか留まらず過水の心配がありません。この結果、栽培上の利点としては他の植物と同居する場合、種毎のかん水量に気を使う必要がなくなり、全て同量の散水が期待できます。さらに炭化コルクはヘゴ板の1/10のコストであり梱包や発送にも軽量で有利です。

 いずれにしても、そうした植え付け栽培が良い結果をもたらすかどうかが全てであり、結論を得るには少なくとも1年間の成長と開花のサイクルを確認する必要があります。これまでの5か月間は従来の植え付けに比べ下写真に見られるように順調に成長しています。入荷時に見られた葉の乾燥による皺は完全に無くなりました。ちなみに写真に見られる株の配列は、僅かに高さをずらし葉が隣と接触しない位置関係と、前後の空間は極力狭くしています。これは画像には見えませんが右手前上に首振りモードの扇風機があり、それぞれの株への均等な送風と、1ヶ所(前面)から全ての株に均一なかん水をするためです。株間を狭くしたのは根周りの空中湿度を高めるためです。ほぼ同じサイズの同じ種を数多く栽培することで出来る配置で、趣味家にはあまり実践的な手法ではないかも知れませんが、ベアールート栽培種の問題点とその対処法の一例として、先のVanda sanderianaに用いた農業用不織布栽培と共に取り上げてみました。

写真1 Aerides leeana
写真2 Aerides leeana
写真3 Aerides odorata alba
写真4 Aerides leeana

Dendrobium sanguinolentum

 Den. sanguinolentumが開花しています。例年ですと浜松温室では初春と秋ですが、なぜか今年はこの酷暑の中で、しかも満開です。ゴールドやウイート色などをベースにセパル・ペタルおよびリップの先端が青紫の斑点を持つものと、この斑点が無いものと、その花フォームは様々です。バスケット植えが最も成長が良く、毎年2回開花して3年経ちます。バスケットから溢れる程の大株になってしまったので植え込み材の交換と枯れた茎を除くなど剪定を含め開花後には植え替えが必要かと考えているところです。

写真1 Den. sanguinolentum
写真2 Den. sanguinolentum

Vanda sanderiana alba. pinkとyellow form

 2009年から2016年まで多数のVanda sanderianaを収集しました。その中で下写真1の左端はPOS (Philippine Orchid Society) Mid-Year Orchid Show 2016年のVanda sanderiana f. albaのブルーリボン賞 (優勝花) で、その右側はレッドリボン (3位) 入賞株です。また左から3番目は別年にレッドリボン賞を得たピンクカラーフォームで、右端が希少とされる黄色フォームです。2016年のPOSラン展では1位から3位入賞株を全て買い占め、浜松に持ち帰りました。albaのホワイトリボン(2位)は順化後に趣味家に販売しました。現地でのVanda sanderiana開花最盛期は8月となります。このことからミンダナオ島Davao市のワリンワリン祭は8月に開かれます。ワリンワリンとはVanda sanderianaの現地名です。2009年に訪問した時は展示会場には無数のVanda sanderianaが展示・販売されていました。しかしこの年の炎天下の会場には外国人にとって30分と居られない40℃以上の酷暑でした。同伴した会津若松の友人はこのワリンワリン祭でのalbaフォームの優勝株を入手しました。Vanda sanderianaはDavao Apo山に生息しDavao市を象徴する花であり、且つ本種名のついた祭りでの優勝花ですから、その年の世界トップレベルのVanda sanderianaであったと思います。

 ところでこうした入賞株をどのようにして入手しているかですが、開会中は展示しなければなりませんから持ち出すことは出来ません。そこで展示会最終日に出かけ、花が気に入れば出品者と交渉し閉会と同時に持ち出すことになります。そこから前もってCITES申請を依頼していたラン園に持ち込み、植物検疫を経て日本に持ち帰ります。よってミンダナオ島となればマニラに持ち帰る行程もあり1日分の余裕が必要となります。

 Vanda sanderianaの花の発色は環境によって大きく変化し、その主な要因は温度ではなく輝度にあります。濃色でコントラストのあるカラーフォームを得るには十分な輝度下での栽培が必要です。とは言っても葉が黄味を帯びる程の高輝度は許されません。そこで今年はこれら希少種を6月以降、常時70%寒冷紗の掛かった温室から移動し、葉が十分に茂った桜の木の下に吊るし、木漏れ日を浴びるような状態で3ヶ月間の予定で据え付けました。それが下写真1で、背景にある太い木は桜です。Vanda sandrianaの根は動きのある空気に触れていることが必要で、現地ではどこもベアールート(根をむき出しのまま)で株を吊るしておりポット植えは皆無です。国内において現地と同様なベアールート栽培を目論むには、昼夜を問わず高湿度が条件となります。しかし、軒下等に吊るしたまま散水をしても国内の湿度では2-3時間で乾いてしまいます。そこで本サイトでは防虫ネットのような風や散水時の水を透す布(農業用不織布)を根の周りに巻いて通気性と共に根の周りの湿度を幾分でも高める工夫をし、朝夕の散水を行って状態を観察しています。下写真は木製バスケットに取り付けていますが、バスケット内はクリプトモスのみで株を抑える程度の役割です。根のほとんどはバスケットの下に長く垂れています。現在マーケットで見かけるVanda sanderianaはほとんどが交配種や実生であり、野生株を得ることは極めて困難と現地では言われています。写真の株は出品者によると全て野生株からの分け株とのことです。左の優勝株には3茎の20㎝程に成長した子株があり2-3年後にはこれらを株分けし販売する予定です。

写真1
写真2 Alba form
写真3 Pink form
写真4 Yellow form

Bulbophyllum virescens

 この連日の猛暑で高温タイプの株を栽培する温室内には30分と居られません。こうした中、4年前にボルネオ島およびキャメロンハイランドから入荷したストック用のBulb. virescensが大株となり、木製バスケットから多数のバルブがはみ出していたため、これらの株分けと植え替えを行いました。本種はよくBulb. binnendijkiiと比較されます。orchidspecies.comではBulb. virescensのページでBulb. binnendijkiiをシノニム(同種)としているものの、Bulb. binnendijkiiにはBulb. virescensをシノニムとしていません。ネットでも両者の画像が混在しています。花無し株からは両者の区別ができないため、マーケットにおいても種名タグ(ラベル)は曖昧です。花を見て長いラテラルセパルの曲がり具合や、セパル・ペタルでの斑点の有無による判断が精々です。

 困ったことは、この両者はそうした曖昧さに加え、orchidspecies.comの情報でも分かるようにBulb. virescensは高温タイプとされる一方で、Bulb. binnendijkiiは低温とされている点です。ボルネオ島の標高1,000m-1,400mが果たして低温と云えるのか、熱帯雨林や熱帯常緑季節林帯では一般的には1,000m – 1,800mをwarm、本サイトで云う中温、また1,800m – 2,500mを低温としているので怪しいところですが、入荷するBulb. binnendijkiiにはロットによっては明らかに高温環境に適していないと思われる様態がみられます。この様態とは高温環境では根を覆う植え込み材の乾燥が中温環境に比べ早く、根周りの乾燥状態が長くなるサイクルが日常的に繰り返されると2 – 3ヶ月経過した頃から古いバルブから落葉が始まることと、新芽は開く前に落ちることが多いことです。 中温環境ではこのような症状は見られません。この栽培状況からは、温度は間接的な影響であり、直接的な影響はむしろ根の乾燥にあるのではないかとの見方もできます。本サイトでの中温環境においては毎日夕刻1回のかん水で、板付けであっても、植え込み材の完全乾燥状態は起こさないようにしています。一方、Bulb. virescens名の株は高温環境であってもバスケット植えで極力根の乾燥を避けているものの、Bulb. binnendijkiiに見られるような問題はこれまで出ていません。この結果、ミスラベルを防ぐ目的もありBulb. virescens名の入荷株はその順化処理過程で、ロット毎に中温と高温に分けて栽培をし、その結果で適温環境を決定することが必要になっています。

 下写真1と写真2は20バルブ程になったBulb. virescens大株を葉付3-5バルブ毎に株分けしたものです。この数でもそれぞれの元株は1株です。元株は高温室での4年間の栽培です。本サイトでは大株であっても基本的には株分けはしませんが、リゾームが長く固い種は適当な大きさになった場合、株分けをしないと始末に負えなくなるため止む無く分割をしています。写真1はキャメロンハイランド、写真2がボルネオ島からの株です。写真3は両者を並べた画像で、左がキャメロンハイランド、右がボルネオ島生息株です。それぞれ最大葉長35㎝強です。バスケットと炭化コルク植えで、炭化コルクは60㎝長です。本種の根は常に湿っている状態が必要なためバスケット植えが最適ですが、硬く長いリゾームは収まりが悪く、今回の板付けでは保水力を高めるためミズゴケをこれまで以上に厚くしています。これらは株分けのため一部のリゾームを切断しており順化が必要なため9月末頃からの販売となります。

写真1 Bulb. virescens Cameron Highlands
写真2 Bulb. virescens Borneo
写真3 Cameron HL (left), Borneo (right)

Dendrobium ovipostriferum

 今年5月に入荷したボルネオ島低地生息のFormosae節Den. ovipostriferumが複数株で蕾を付けています。本種は当サイトに見られるように1茎当たり5-6cmサイズの花が2-5輪同時開花し、白いセパル・ペタルにオレンジ色のリップが鮮やかで見応えがあるデンドロビウムです。別名Den. takahashiiとも呼ばれています。種名検索ではしばしばDen. deareiの花画像が誤って表示されることもあります。

 本種にはリップがオレンジ色と黄色の2系統があるようです。下写真1-6にそれらを示します。写真1, 4が花正面、写真2, 5はリップ、写真3, 6は側面です。写真1-3は10年前に、当時原種を扱っていたインドネシアSimanisから30株ほどを入荷した株の花です。そのロットからは1株のみ前記リンクサイトの画像にある黄色いリップフォームが現れました。写真4-6はマレーシア経由で5月に入荷した株で7月末に開花した花です。5月入荷ロットでの初花は別株で6月に開花し、その月の歳月記にリップ先端がややスリムな花を紹介しました。現在、4株ほどに蕾が見られ1週間程で開花すると思います。

 写真7は花フォームを比較した画像で、左は写真1-3の花、中央が6月歳月記の花、右が写真4-6の花です。それぞれリップを切り離して撮影しています。それらの形状やカラーフォーム比較からペタルの形状が左は卵形で、5月入荷株の中央と右は楕円形であること、また蕊柱とspur基部が左と中央は赤く、右は赤味がなくリップの黄色と合わせてaureaフォームのようです。こうした違いは地域差あるいは個体差によるものかどうか、今後の開花を待って調べる予定です。写真8の株写真は、6月の画像がバーク・ゼオライトミックスのスリット入りポット植えでしたので炭化コルク(35㎝x10㎝x3㎝)植えもあることを示したものです。5月入荷株はこの2つの植え付け方法でそれぞれの株を観察しているところです。現在は入荷から2ヶ月半ですが、バーク・ゼオライトポット植付けの半数に新芽が出ています。本種は10年以上栽培を続けていることからFormosae節としては、Den. tobaenseDen. toppiorumと比べて丈夫な種であり、またSpatulata節と並ぶ2ヶ月間程の長寿命開花種でもあり、大株にして多輪花が得られれば展示会出品には最適なデンドロビウムの一つと思います。

写真1
写真2
写真3
写真4
写真5
写真6
写真7
写真8

猛暑到来

 関東地区の今後の天気予報では、今月31日頃から本格的な猛暑が始まり連日昼間34℃、夜間25℃の予想となっています。気温34℃となると、温室内は70%の寒冷紗下であっても40℃を超えてしまいます。窓を全開し風通しを良くしても外気温以下にはならず室内では35℃以上です。連日このような気温が続くと低温タイプは無論、中温タイプも耐えることができない環境となり、山上げ、エアコンによる空冷あるいは温度センサによる自動散水などが必要で、こうした対応が困難な場合は日の当たらない風通しの良い軒下に置く以外ないと思います。株が少なければエアコンのある家屋内に取り込むのが最善です。しかしもう一つの問題は自動散水を除けば、乾燥によるダメージです。困ったことに外気を利用したり、家屋内では乾燥が一段と進みます。高温と乾燥しがちな環境が8、9月と、特に乾燥を伴う25℃以上の夜間温度が長期に続くと中温タイプは作落ちの危険が高まります。

 本サイトの温室は四方が中空ポリカーボネイト板で建てられており、70%寒冷紗と外気を取り込む換気扇をフル稼働(浜松の外気は30 – 33℃)して昨日(28日)は11時から15時までは38℃でした。そこで温室内に16℃の地下水で散水をして35℃まで下げました。晴れた日は2回、曇日は夕方一回の散水で35℃以下を保つようにしています。それでも.日中の2-3時間は38℃が避けられません。一方、低温室は2台のエアコンがフル稼働し昼間25℃前後、夜間は15℃ですが、夕方葉水するため株本体は気化熱で実質2℃程この温度より低下していると思います。中温エリアはそれより3-4℃高くなります。

 温度38℃は高温タイプのランですら短時間ならば許容できるものの限界温度です。 では現地のラン園ではどうしているのか。5月マニラを訪れ、午後1時半頃にマニラ空港のビルを出たとたん、今年もあまりの熱気で驚きました。迎えのドライバーに聞いたところ42℃で、ケソン市ではさらに2度程高いとのことでした。湿度は80%以上です。フィリピンでは3-5月頃が最も気温が高くなるそうです。慣れていない人は呼吸が苦しく感じる程です。通りに人はほとんど見かけません。一方でネット記載のマニラの年間気温で見ると、この時期の最高・最低温度が34℃と24℃となっており今年の東京の8月初旬予想と変わないような数値で、観測点がどのような場所か分かりませんが実状とはかなり異なる数値です。特にここ数年は温度上昇が一層進んでいるそうです。フィリピン最大のラン園Purificacion Orchids(表示されるGoogle航空Mapを拡大すると4ヘクタールの農園やタガイタイの全貌が見られます)では設立当初はマニラ近郊でしたが、高温と水質問題から20年以上前にタガイタイ標高700m近くに移ったそうです。タガイタイは昼間32℃、夜間は25℃弱です。3-10月は毎日のように午後にはスコールがあり、夕方になると一気に気温が下がります。一方、雨の少ない11月から2月は夜間18℃程になります。

 すなわち放射冷却が期待できる森林の中でもない限り、マニラ周辺ではランの栽培は無理で、精々デンファレ位だそうです。一方、タガイタイ周辺は上記の気候であり、ランを含め観葉植物栽培農園が多く見られます。日本と異なるのはタガイタイでも昼夜の気温差と雨量が多いことから夜間の濃霧の発生が日常で、夜間の湿度は極めて高いことです。それでも晴れた日中には葉面温度を下げるためスプリンクラーを使用してかん水を行っているほどですから、ランの植込材も常に湿った状態になっています。現地ラン園によると問題はこうした環境であっても、例えばミンダナオ島1,200m-1,500mのコケ林生息の中温タイプのランは、維持は出来ても気温が高すぎて開花は難しいとのことです。より高温のマレーシアにおいては言うまでもありません。しばしば訪れるマレーシアラン園も、新種や希少種などの生息域は年々高地に移っており、今後益々国際マーケットでの需要が高まるであろう中温タイプのランを扱うため、キャメロンハイランドの気候に似たゲッチンハイランド標高1,000m(最高峰1,700m)付近に栽培場を建築中です。PNGのランも1-2年後には出荷できると思います。

 さて話を戻し、国内では現実問題としてエアコンが無くてはランが上手く栽培出来ない気候になりつつあります。でなければ水撒きと云った労力で解決するしかありません。何とか猛暑期の高温と乾燥対策ができたとして、それで良いかと言えば、もう一つ大きな問題は病害虫防除対策です。この時期もっとも細菌性の病気の発生率が高くなり、また従来から知られた害虫だけでなく、最近問題になっているオオランヒメゾウムシにも注意が必要です。繁殖力が強く、新芽などの成長芽を食べるだけならナメクジと同じで何とか耐えることもできますが、幼虫は茎の中で芯を食べて成長するため単茎性のランにとっては致命的で、デンドロビウムなどもその被害は深刻です。この害虫を記載した薬剤が現在無く、本サイトでは沖縄県農業研究センターの会報に書かれているアセタミプリド水溶剤(モスピラン水溶剤1/3000希釈)とアセフェート水和剤(オルトラン水和剤1/1000希釈)や合成ピレスロイド系殺虫剤(アディオン乳剤1/2,000希釈)との組み合わせが有効とのことで7、8月は月2回、これらの混合液を散布します。この混合液で植物への薬害は現在見られません。(注:カッコ内は対応する商品名と規定希釈例です。また同じ殺虫剤でも粉末の水和剤や液体の液剤あるいは乳剤があります。指定された希釈で使用する限り効果や対象害虫に違いはありません。)

Phalaenopsis mariae

 今年5月、葉長35-40cmのPhal. mariaeの大株20株をフィリピンから持ち帰り、40cmx12cmx3cmの炭化コルクに取り付けました(6月歳月記に画像有り)。これほどの大株が纏って入荷したのは15年間で初めてです。フィリピン現地の本サイト用のストックヤードにはまだ100株ほどが栽培管理されており、これ程あれば1-2本変わったフォームが出ないかと期待しているところです。浜松では現在順化中にも拘わらず株の半数で開花が始まりました。移植後の新根も十分伸びていない中での初花であるため開花数はそれぞれ10輪程と少ないですが、現地での花茎の開花跡を見ると、1年後には1株当たり40-50輪ほどになると思います。本種は白、クリーム、薄オレンジ色をベースに赤い棒状斑点をもつ花をつけ、その輪花数の多さから華やかさがあります。ネットではよくPhal. bastianiiと間違って販売されることがあります。下画像は現在浜松にて開花中の花です。本種は低輝度で高温タイプとなります。本種は葉および花茎共に下垂タイプであるためポット植えは適しません。ヘゴ板やコルク付けとなります。

Dendrobium datinconnieaeとDendrobium serena-alexianum ? (punbatuense) II

 前項本題のDen. serena-alexianum の画像で、写真1,2の花のリップ基部に3角形をした突起が写っており、これが写真3および写真7-9のDen. datinconnieaeには見当たらないため、胡蝶蘭原種で実施している花の各部位を切り離しそれらを調べるのが最善と考え、切り出してみました。そうしたところ明確な違いが分かりました。下写真は2種の比較画像で、それぞれ左がDen. datinconnieae、右がDen. serena-alexianumです。写真1は花全体を、写真2はリップ、写真3はリップを外し蕊柱を下方から撮影したものです。大きな違いは、写真2のリップ基部の突起の有無です。この突起は画像に見られるように厚みがあるものがあれば、薄くリップ面に張り付いた様態 もあり、リップを切り離さないと分からない花(前項写真3)もあります。形状のサイズ、変形また色合いとは異なり環境に影響を受けない特異的な形状突起の有無、さらにその有無が種名毎の入荷ロット内では共通した特徴であることから両者は別種と判断しました。但し前項の冒頭で記載した現地マーケット名でのDen. serena-alexianumが、J. Wood & C.Chan氏が2008年に記録した種であることが前提で、異なるのであれば2018年末に入荷した前項写真1-3の種のフォームをもつ種が現時点では見られないことから、これまでに記録がない種の可能性が高まります。(後記:その後の調べでDen. serena-alexianum名で入荷した前項写真1-3の種はDen. serena-alexianumの近縁種とされる2008年の新種Dendrobium punbatuenseの可能性が高くなりました。ただし写真3の株はリップ突起は共通するものの、Den. punbatuenseとはリップ側弁の斑点とSpur形状の相違から別種の可能性は残ります。)

写真1 Shape differences between Den. datinconnieae (left) and Den. serena-alexianum? (Den. punbatuense) (right)
写真2 Shape differences between Den. datinconnieae (left) and Den. serena-alexianum? (Den. punbatuense) (right)
写真3 Shape differences between Den. datinconnieae (left) and Den. serena-alexianum? (Den. punbatuense) (right)

Dendrobium datinconnieaeとDendrobium serena-alexianum ? (punbatuense)

 Den. datinconnieaeDen. serena-alexianum.は、いずれもボルネオ島低地丘陵地帯の生息で前者がJ. Wood & C.Chan氏らにより2010年登録申請、後者が2008年登録された新種です。しかしこの両種は多様な、似て非なる花フォームと形状から同種(シノニム)あるいは別種の可能性についての議論があり、ネットでの花画像検索でも両者が入り乱れ纏りがありません。そこで今回、現地マーケットから、それぞれの種名で入荷した株の浜松温室での開花に伴い、その花フォームを比較してみました。写真1-3はDen. serena-alexianumとされる3つの花フォームで、写真4-6は写真1-3と同じ花のSpur(後方に伸びた突起部)です。また写真7-8はDen. datinconnieaeの花と写真9はそのSpurとなります。

 画像から幾つかの興味ある特徴が見えてきます。まず写真1-3 Den. serena-alexianumの花のリップはその外縁が上向きで、リップ先端は上方に反っています。一方、写真7-8のDen. datinconnieaeのリップ外縁はそれとは反対に下方に反っています。 またDen. serena-alexianumのグループのSpurは写真4, 5は細長く似ていますが、写真6はその先端まで太くやや短かい形状で、一方Den. datinconnieaeは短く細い形状となっています。Calcarifera節は同種同ロット内であってもセパルペタルのラインに視覚的な有無が見られることがあり、写真1,2は同種と思いますが、写真3のSupr形状の相違は違和感があり、リップの斑点と合わせ別種の可能性があります。またDen. datinconnieaeと写真1-6グループとはリップ外縁や斑点様態とSpur形状が異なっていることから別種と思われます。

 両者の疑似バルブ、葉形状および花序形態、また開花期には両種に違いは無く、花サイズはDen. datinconnieaeが2.5cm、Den. serena-alexianumが3.0cmとされるものの、それぞれの株毎に比較すると、環境依存の生育範囲と思われる様態も多々見られます。一方、開花から枯れるまでの花色の微妙な変化など他の類似点を合わせ、これらはごく近い近縁種と思われます。

写真1 Den. serena-alexianum? (Den. punbatuense)
写真2 Den. serena-alexianum? (Den. punbatuense)
写真3 Den. serena-alexianum? (Den. punbatuense)
写真4 Den. serena-alexianum? (Den. punbatuense)
写真5 Den. serena-alexianum? (Den. punbatuense)
写真6 Den. serena-alexianum? (Den. punbatuense)
写真7 Den. datinconnieae
写真8 Den. datinconnieae
写真9 Den. datinconnieae