Dendrobium flos-wanuaの開花

 現在Den. flos-wanuaが開花中です。Den. dianaeも蕾をつけ始めました。サンシャインと東京ドームラン展にこれまでの市場価格に比べ格安の2,500円で出品したのですが、2010-2011年のボルネオ島Kalimantanの新種にも拘わらず両者とも出戻りです。開花株か、あるいは少なくとも花写真が無いと余り知られていないことから売れないのかも知れません。本種はペタルの基部左右それぞれに赤いラインが4本入るのですが、このラインには濃淡があり、ラインがほとんど発色しないフォームもあります。このラインの濃淡が個体差なのか環境に影響され変化するものかは現時点では不明です。特徴は下写真1に見られるように全体が薄黄色のベース色に、リップ基部の突起を囲む淡いゴールデンロッド色の輪模様です。下写真は現在の開花状況です。茎も長くなってきたので炭化コルクに4A品質のミズゴケで植え付け、秋から500円アップの再販です。

写真1 Dendrobium flos-wanua
写真2 Dendrobium flos-wanua
写真3 Dendrobium flos-wanua

Dendrobium rindjanienseの栽培

 桜の咲くころから現在まで、Den. rindjanienseの新芽(昨年秋から今年に新しく発生したバルブ)の成長が活発です。下写真1-5の5株は昨年8月に入荷した株で、写真2と写真3の2株に見られる10葉以上が付いた長い茎は入荷時点で若芽が出ていたものです。長さは2倍以上に伸長し、その他は浜松にて順化後および今年発生した新芽です。6月から現在までは特に雨天が多く、温室内は比較的多湿であり若芽(茎)の成長が活発です。なおDen. rindjanienseは比較的高輝度を好みます。低輝度と高輝度下で比較すると新しい茎の成長はかなり異なることが分かりました。写真6は5月中旬に入荷し炭化コルク付けのDen. tobaenseの新芽です。

 昨年8月入荷ロットのDen. rindjanienseはサンシャインおよび東京ドームにて多くの方が購入されました。同様な状況と思いますが、もし下写真のような若芽の発生が無く、また購入時から新芽の成長が余り活発でない場合は栽培環境が適していない可能性があります。本種はLombok島標高2,000m程に生息の中温タイプのため夜間平均温度は可能な限り20℃以下(昼間の温度は30℃を越えても良い)が好ましく、この条件を満たしていないか、コルク付けの場合、根が乾燥気味であるか、あるいは輝度が低すぎないかをチェックする必要があります。特に環境の良し悪しは新芽の発生や伸長が重要な指標となり、昨年から東京ドームラン展までに購入した株であれば、これまでに開花を含め、新芽の発生があって然るべきです。

 これまで3年間で50株以上の本種の栽培を通して見えてきた成長が芳しくない一つの可能性は、根の完全乾燥を伴う環境です。ミズゴケに触れてみて全く水分が感じられない根の周りの乾燥状態が、かん水から次のかん水の合間にサイクリックに繰り返されるとダメージを受けます。夜間の湿度が常に80%以上と高ければそれでも問題はないのですが、ほとんどのデンドロビウムや胡蝶蘭等の原種の成長はこの夜間の高湿度化が課題です。本種は15℃以下の低温環境でない限り、常に根が濡れているというよりは湿っている状態が好ましく、これが容易に出来るのはコルクやヘゴ板付けで、幾ら大量の水を与えても数時間は濡れていますがやがて取付材や植え込み材のもつ保水力で湿った状態が長く続きます。

 空気が乾燥気味で、湿り気が続くよりは乾燥する方が早い環境では 垂直支持材のミズゴケを多めにした植え付けを行い保水力を高める対策があります。しかし朝にかん水をし、夕方には根の周りのミズゴケ表面がほとんど水分の無いサラッとした状態て、夜間の湿度は60%程度が精々といった環境では、まず垂直取り付け材は適しません。むしろこうした環境ではポット植え以外手段は無いように思います。一方、ポット植えは垂直取り付け材以上に、根腐れを如何に防ぐか、かん水量に対する気遣いが求められます。夕方にかん水をし、早朝には水滴が幾分か葉上に残っており、昼間にはそうした水滴は消えている。この繰り返しが早春から梅雨期、また晩夏から晩秋までの期間の最も成長に有効な環境で、もし前日のかん水の水滴が昼頃まで残るようであれば、その夕方のかん水は不要といった目安が一つの対応です。 Formosae節も、特に中温タイプの多くの種に関して早春から梅雨明けまでに新芽の発生が見られない場合は、同じ問題が背景にあることが多く、手でミズゴケを軽く抑えたとき手に水分が付く状態ではなく、湿り気を感じる程度の状態を如何に長く保つことが出来るか、新しい植え込み材での植え替え、夜間湿度など環境改善が必要です。

写真1 Dendrobium rindjaniense
写真2 Dendrobium rindjaniense
写真3 Dendrobium rindjaniense
写真4 Dendrobium rindjaniense
写真5 Dendrobium rindjaniense
写真6 Dendrobium tobaense

Euphlebium(Dendrobium) elineae

 フィリピン北西部Norteで2009年発見、2017年新種として登録された本種が現在開花しています。4か月間隔での開花です。他の近縁種Dendrobium balzerianumbicolenseも3ヶ月おきに浜松温室で開花しているところを見ると、これらの種は年に3-4回開花するようです。精々2日花ですのでこの頻度での開花がないと存在感がありません。こうした短日花の品種は場所がそれなりに離れて多少環境(温度・湿度)が異なるにもかかわらず互いに合図でもしたかのように全株が一斉に開花する種と、近くにいても数日ずらしながらそれぞれの株が順次開花する種があり、浜松温室では本種が一斉に、Den. balzerianumは数日ずらして開花します。この種はこれで短日花とは言えそうした特性もあって栽培が楽しい種です。

写真1 Euphlebium(Dendrobium) elineae
写真2 Euphlebium(Dendrobium) elineae
写真3 Euphlebium(Dendrobium) elineae

Dendrobium serena-alexianum (後述:Dendrobium punbatuense)

 昨年12月にマレーシアから持ち帰った2008年登録のボルネオ島Sabahの新種Den. serena-alexianumが5株ほどで一斉に開花しました。本種については昨年12月の歳月記に現地にて筆者が撮影した花画像を掲載しました。今回浜松の開花で驚いたのは、同一ロットであるにもかかわらず、その撮影した花フォームを含め4つのそれぞれ異なるフォームが現れたことです。それそれの株(疑似バルブ、葉)とセパルペタルおよびリップの形状は共通しているものの、セパルペタルに走る細いラインやリップ側弁の斑点が有ったり無かったりと色合いや斑点が異なります。下がそれらの画像です。

 同一ロット内でこれほど花のフォームが異なる種は殆んどありません。写真1-4がそれぞれ今回開花したフォームです。写真5が写真1、写真6が写真3の花の全体画像となります。本種は同じ生息域のDen. datinconnieaeと酷似しており、シノニムの関係との説があります。一方でorchidspecies.comのようにこれを疑問視する意見もあります。Den. datinconnieaeではこれまで上段左のセパルペタルおよびリップにラインが入るフォームは観測されておらず、一方、Den. serena-alexianumのリップ先端はDen. datinconnieaeのような裂け目は見られません。その点では異種と考えられますが、今回の開花の中にラインの無いセパルペタルやリップ側弁が本サイトのデンドロビウム・サムネイルsp11のスマトラ島からの同じCalcarifera節のリップ側弁内側基部に褐色の斑点が入るフォームが現れると果たして本種は野生種であるのかどうかDNAによる種判定が必要とも思います。そう言えば同一ロットから複数のフォームが現れるDen. dianaeもSabahとKalimanntanの違いはあるものの同じボルネオ島生息種で同じサプライヤーであったように思います。

写真1
写真2
写真3
写真4
写真5
写真6

Phalaenopsis fimbriata

 Phal. fimbriataはインドネシアおよびボルネオ島Sarawakの、低地から標高1,300mの生息とされます。これまで本種は高温種とされてきましたが、近年高温環境での栽培が難しくなっています。晩秋から冬にかけての入荷株の植付けでは、晩春まで順調に新根や芽が伸びるのですが、夏を迎えるとやがて成長が止まりその後病気がちあるいはじり貧状態となり1年以上経った頃には株数が半減してしまいます。この原因と考えられるのは、おそらく近年の生息地におけるプランテーション開発により低地生息種はほとんど見られなくなり、現在はそのほとんどが高地産の入荷に替わっているのではないかと推測しています。最近入荷の本種は栽培温度で言えばDen. tobaenseと同じ中温環境が適し、夏季は山上げあるいは夜間平均温度として20℃以下が好ましいように思われます。生息域については現地ラン園にてですら正しい情報を得ることが難しく、しばしば従来知見(先入観)で対応されてしまい当てにはなりません。

 下写真の株は高温室にて1年以上栽培した結果、販売が出来なくなった作落ち株を1年程前に中温室に移動したことで回復した現在開花中の花です。このように胡蝶蘭だけでなくデンドロビウムやバルボフィラムも最近は同じような問題を抱えており、新たに入荷する株はまず生息標高情報をorchidspecies.com等でチェックし、その範囲が広い場合は低、中、高温の2つ以上に数株づつ分けて栽培し、新しい芽や根の動きを2-3ヶ月間観察し、適温と思われる温室に移すことが多くなりました。こうした作業も含む「順化」の重要性が一層高まっています。

写真1 Phal. fimbriata
写真2 Phal. fimbriata

現在開花中の4種

 写真1はDen. cinnabarinum_ v. angustitepalumです。Den. aurantiflammeum同様にバスケットにミズゴケ植えでの栽培です。写真2は昨年登録の新種Den. deleoniiです。ミンダナオ島Bukidnon’sの雲霧林(コケ林)生息種で環境は高輝度とされ、ローカルマーケットでは古くから売られていたそうです。写真には現地にて交配したタネが見られますが浜松にて実生化を予定しています。写真3はカンボジアからのDen. wattiiです。左右スパンは7.5㎝の大きな花で良く目立ちます。1か月近く開花します。こちらも高輝度を好むようです。写真4は1月のサンシャインラン展で当サイトの前に出店していた中国のラン園から最終日に入手したHolcoglossum kimballianumです。こちらは花の形が整っており左右スパンが5㎝となります。いずれもこれら4点は標高1,000m以上の生息種であり、当サイトでは中温室にてそれぞれが明るい場所あるいはLED蛍光灯直下での栽培となっています。Den. cinnabarinumを除いて他の3種は炭化コルク付けです。

写真1 Den. cinnabarinum var. angustitepalum
写真2 Den. deleonii
写真3 Den. wattii
写真4 Holcoglossum kimballianum

種名Coel. hirtellaで入荷したCoel. sp

 Coel. hirtella名で1昨年8月末にボルネオ島生息種として入荷したセロジネが今年6月に開花し先月の本ページの「現在開花中の花」にCoel. hirtellaとして取り上げました。2株目が現在開花中です。そうしたところ、いつもアドバイスを頂いている常連さんから写真のセロジネについてCoel. hirtellaとの相違点についてご指摘を頂きました。下写真はその株と花です。そこでCoel. hirtellaとの違いを整理してみました。

 これまでorchidspecies.comに見られるようにCoel. hirtellaは黄色ベースのリップ中央弁に基部から先端に向かって2-4本の滑らかな棒状突起がある一方、入荷種(以下spという)は写真2が示すように中央弁は茶色をベースに縮れた様な凹凸突起であり、またリップ側弁の模様もCoel. hirtellaは波状のラインであるのに対し、spは一部が網目状となっています。またセパルペタルはCoel. hirtellaの白色に対し、spは薄緑色です。こうした花フォームの違いに加え、バルブはCoel. hirtellaはやや卵形に近い円錐形に対しspは細長い円錐形です。

 Coel. hirtellaはTomentosae節であり、その中にspと似た花フォームを探してみると、リップ上の突起が縮れた形状の種にCoel. tomentosaがあり、この種には個体差として薄緑色も見られます。しかしもっとも大きな違いはspの花茎は直立であるのに対してCoel. tomentosaは下垂型であることと、花茎はsp種のように新葉(バルブ先端)から花茎が発生しておらずバルブ元です。バルブもspのような細長い円筒形ではありません。一方、Coel. asperataはリップフォーム形状や、新葉の中心(バルブ先端)から花茎が出る点で似ているものの、花茎は直立ではなく多くは弓なりで、バルブは扁平卵形でsp程、細長くありません。Ceol. chloroptheraは側弁フォームが異なります。またCoel. lentiginosaは花茎はバルブ元から出ていることと、ボルネオ島生息種ではありません。仮に花茎の発生個所や直立性またリップ形状などのAND条件が満たされた株が上記のいずれかの種あるいは節から見つかればspは既存種の地域差あるいは変種となるかも知れませんが現時点ではそうした情報はありません。

 そこで再びsp株の入手時の状況を調べてみたのですが、2017年7月にマレーシアのサプライヤーから本種の画像メールが当サイトに送られており、そのメールにはCoelogyne newと書かれていました。おそらく出荷書類上の対応から種名を定めなくてはならず、生息地が同じで似た種としてのCoel. hirtellaの可能性もありとして、その名がアサインされたものと推測します。多数のセロジネを栽培しているアドバイザーからは現時点では新種の可能性が高いのではとのご意見です。栽培はクリプトモスミズゴケミックスで中温室です。次回マレーシア訪問でその後の状況を聞き、希少性が高いようであれば実生化を図りその一部を戻すことも必要かと考えているところです。

写真1
写真2
写真3
写真4

蟻の巣玉Hydnophytum formicarumの花

 蟻の巣玉を3年前から毎回ラン展に3種ほど、それぞれ2-3株と僅かですが出品しています。その中でミンダナオ島のマングローブ帯の木に着生するHydnophytum formicarumは、ネット検索すると手のひらに乗る程の小さなサイズで10,000円もする高価な種です。当サイトが出品しているのは塊根の直径が25cm程の巨大な株です。価格は、本種を良く知る人からのアドバイスを受け30,000円としました。この高価格で昨年に続き今年も売れ切れです。当サイトにとってラン展出品の中でこの価格に匹敵できるランはクラスター株を除いてありません。ランを販売する当サイトにとってラン以外の属種は本道ではない(よく知らない)こともあり、並の株サイズには興味がなく、蟻の巣玉や蟻シダについてフィリピンラン園にはこれ以上大きなサイズはないと思う程の株を集めるようにと難しい注文を出しており、浜松に集まる本属はいずれもバスケットボール並みのサイズとなっています。

 浜松の栽培では当然蟻は住みついていませんが、ラン同様のタイミングで同じ液肥を葉と塊根に与えているだけで元気です。その株が多数の枝に小さな赤い実を年中付けているのですが、不思議なことに本種を取り扱い始めて3年間、花を見たことがありませんでした。温室に来られるラン趣味家の方々から赤い実を見てどんな花が咲くのかとよく質問されるのですが、逆に花が咲かないのになぜ実が付くのでしょうねと答えていました。ところが数か月前に本種を温室内のランの植付け作業場所近くに移動したことで目につくこともあり、今月に入り初めてその花を見ることが出来ました。その大きな塊根に似合わず2mm程の何とも白い小さな花が枝の節々に点々と開花していました。おそらく蟻の巣玉愛好家は良くご存知とは思いますが栽培したことのない人はまず花を見たことはないであろうと、下にその画像を載せてみました。ネットで本種の花画像を探したのですが数百の画像の中で1点のみでした。その花の細部はCanonEOS60mmマクロレンズの最接写でどうにか撮れるほどの小ささです。

Hydnophytum formicarum
Hydnophytum formicarum
Hydnophytum formicarum
Hydnophytum formicarum

成長の度合いで花サイズあるいは花数の大きく異なる種2点

 下写真1は現在開花中のDen. papilioで、写真2は昨年12月に入荷したスラウェシ島生息のDen. endertiiに似た種名不詳のデンドロビウムです。Den. papilioは同一ロット、つまり生息エリアは同じですが、栽培環境の違いによる成長で花サイズが大きく異なる様態を示しました。一方写真2は1株での同時開花の様態を示す画像です。3茎それぞれに1-2本の花軸が発生し、花軸毎に総状花序で5-6輪の花をつけるため全体で25輪程となります。入荷後の初花は株当たり花軸は一つで開花は2輪1組のみでした。この種はスパチュラータ節に見られるように1か月以上開花を続けます。

 このendertii-likeデンドロビウムも今年5月の蘭友会サンシャインラン展に出品しました。Den. endertiiはボルネオ島固有種とされ、ネットからは国内マーケット情報は本サイト以外見当たらず、本種も希少種の一つと思われ3,000-3,500円で販売したものの購入者はいませんでした。また偶然にマレーシアのスタンレー氏がタイのJoe&Mamブースにて開花中の株を含め本種をDen. spとして出品していましたがそちらでも販売した様子は見られませんでした。スラウエシ島生息に間違いなければ新種かあるいは同島にもDen. endertiiが生息するという新発見となります。どうも海外勢も本サイトも貴重な新種やマーケット初登場種の売り込み方が今一つで、来年はそうした種の差別化を明確にし、ラン展に訪れた方に分かり易くする対策が必要と痛感しています。

写真1 Den. papilio
写真2 Den. sp from Sulawesi

Bulbophyllum sp from Papua New Guinea

 昨年8月に入手した下写真のBulb. spが開花しました。左右のセパル間のスパンは5㎝です。今年1月のAJOSサンシャインラン展に、一見セパルにラインが無いBulb. zebrinumの様であったためBulb. zebrinum-likeとラベルに書いて2,500円で出品しましたが果たして購入者がいたかどうか定かではありません。中部地方の蘭愛好会の数名の方が本サイトの温室に来られた際、購入されました。Bulb. zebrinumquadrangulateなどを含むPolymeres節をネットで調べた限りでは、該当する画像が見当たりません。いずれかのジャーナル等にすでに種名が発表されているかも知れませんが新種の可能性が高いと思います。本サイトでの栽培は高温室で低輝度、また下写真に見られるようにブロックバークに取り付けています。

(後記)夜遅く温室で本種を見たところ花が終わる状態に似て、全てのセパルは閉じてしな垂れていました。ところが翌朝再度見たところ下写真のようにピンとして元気です。どうやら雲霧林(コケ林)生息種のようです。よって根が乾燥を嫌う性質と考えられ乾燥気味な環境ではプラスチックポットにミズゴケで植えつけるか、コルクやヘゴ板の場合は根だけでなくその周りも多めのミズゴケで覆って、常時根を湿らせておく栽培が良いと思います。

Bulb. sp. Papua New Gunia
Bulb. sp. Papua New Gunia