Aerides magnifica(旧名Aerides quinquevulnera v. calayanensis / Aerides odorata Calayan form)

 現地でこれまで幾つかの旧名があったCalayan諸島生息の本種がAerides magnificaと命名されたのは2014年の最近になってからです。すでにCalayan諸島では生息域でのプランテーション化が進みAeridesの多くが絶滅状態にあり、現在のマーケットでの本種は園芸品種と聞いています。下写真は実生化のためにフィリピンラン園から預かっている株です。花は淡く柔らかなパステル・ピンク色ですが緑の葉に囲まれた景色の中ではよく目立ち存在感があります。これら以外にアルバタイプもあります。毎年元気よく開花するのですが自家交配では中々胚のあるタネをつけてくれません。今年も実生化への挑戦です。

Aerides magnifica
Aerides magnifica

Phalaenopsis lindenii

 胡蝶蘭原種の中で人気の高いPhal. lindeniiが浜松温室では開花期を迎えています。その中にセパル・ペタルのベース色がこれまでに見た中では最も濃いピンクの株が開花しました。通常のカラーフォームは白か、所何処に淡いピンクが見られる程度です。写真1の右側が今回のピンクフォームで左が一般的なフォームです。一方、写真2は下がピンク、上が現在開花中のアルバフォームでそれぞれ並べて撮影しました。

写真1 Phal. lindenii
写真2 Phal. lindenii

Bulbophyllum singaporeanum

 本種はシンガポールと共に、隣接するマレーシアJohoreの低地に生息するバルボフィラムです。最も高い標高でわずか164mのシンガポールに野生のランが生息しているの?とつい疑ってしまいますが、本種はシンガポールでの数少ない野生ランの一つです。8月末にマレーシアから持ち帰ったバルボフィラムで、今月に入り浜松温室にて開花しました。下写真がその花です。なぜかネット検索では国内マーケットに見当たりません。シンガポールAsiatic greenが3バルブ20ドルとのことなので当サイトでも3バルで2,000円で販売予定です。炭化コルク取付コストを考えれば実質1,500円と言ったところでしょうか。

Bulb. singaporeanum
Bulb. singaporeanum
Bulb. singaporeanum

Coelogyne cristataのネット情報について

 またしても不思議な情報をネット販売サイトで見てしまいました。Coel. cristataはヒマラヤからタイ北部に至る標高1,500mから2,600mに生息するクールからコールドタイプのセロジネです。その販売サイトによると標題として”栽培は容易なセロジネ属初心者向き”とあり、さらに夏の暑さにちょっと弱いので、 夏はなるべく風通しの良い涼しい所で栽培、 花期は秋~冬初心者向き、栽培は極めて容易。”とあります。はてコールドからクールタイプのCoel. cristataがどうして極めて栽培が容易で初心者向きなのか不思議です。栽培の秘訣のようなものを教えてもらえるのでしょうか。

 traveldo.blogspot.comでは本種について以下の栽培詳細説明があり要約してみました。

栽培平均温度:夏季 昼間21-24℃、夜間14-15℃、昼夜の温度差6-9℃。冬季昼間11-13℃、夜間2-4℃、昼夜の温度差8-9℃
湿度:夏季85%、冬季60-70%
輝度:20,000-30,000lux
通風:常時必要
植付け:植え替えを嫌い、植え替えや株分け後は2-3年間開花が難しい

等です。米国ラン協会のAOSサイトにも詳細記載があり栽培湿度は上記と同じ。栽培温度は6-7℃自然環境より高くても栽培可能とのこと、しかし輝度はかなり高輝度が必要で、強い通風が重要であるとしています。上記は販売サイトでの栽培解説ですが、これだけ詳細に記載することは、米国等では曖昧や誤った販売促進情報で購入者側に損害が出た場合は訴えられるからでしょうか分かりませんが、日本とはかなり異なり経験則に基づく客観的記述が見受けられます。

 本サイトでもわずかに栽培していますがCoel. bicamerataと同じクールから中温室です。栽培初心者がこうしたそれぞれ異なるラン栽培情報のある中で、正しい知識を得るためには残念なことに国内に於いては販売サイトからではなく、非営利ネットサイトから複数の栽培情報を集め自身で判断するか、前回も述べましたが蘭友会等に入会することで栽培体験者にアドバイスをもらうことが、その後の失望を回避しランの栽培を楽しむ最も有効な手段と思います。

フィリピン生息のBulbophyllum inunctum

 Bulb. inunctumはボルネオ島およびマレー半島での生息が知られています。フィリピンLuzon島Aurora州での生息は最近の登録とのことです。このBulb. inunctumが7月に入荷のBulb. glebulosum名の株の中に混じっていることが開花で分かりました。Bulb. glebulosum名の株の全てがミスラベルかどうかは現時点では不明ですが葉形状が若干異なる株もあるように感じられ、同定には時間が必要です。

 今回ミスラベルとして開花したBulb. inunctumはボルネオ島やマレー半島の一般的なフォームであるセパル・ペタルがピンクあるいはクリーム色をベースに細い多数の赤紫色のラインが入るフォームとは異なり、下写真に示すように黄色をベースにドーサルセパルは赤色の斑点、一方ラテラルセパルがラインでyellowフォームと言われるタイプです。花サイズは12cmと大きく、中心のリップの赤色が大きなアクセントとなっており美形です。ミスラベルも問題ですが、これはこれで存在感があります。J. Cootes氏はCoel. usitanaと同様にその著書Philippine Native Orchid Speciesのなかで、”なぜこれほど華やかな(spectacular)種が長い間フィリピンで発見できなかったのか驚きである”と述べています。

 こうしたミスラベルが含まれ、またそれらに予約タグが入っている株がある場合が最近はしばしばで、いつも悩みの種となります。花を確認した株は兎も角、それまではBulb. glebulosuminunctumのどちらでも良いか伺ってからの販売しかできなくなってしまいます。

Bulb. inunctum
Bulb. inunctum
Bulb. inunctum

 ちなみに、Bulb. inunctumの栽培はなかなか難しいあるいは花が咲かないという趣味家がいるのではと思います。と言うのは本サイトでも最近になり本種の栽培に悩まされたからです。orchidspecies.comの本種の生息温度範囲を見ると クールから高温までの広範囲となっており、地域によっては低地から2,000m程の標高範囲に生息しているものと推測されます。

 このような種の栽培上の問題は、果たして購入した株がクール、中温、高温のいずれの範囲でこれまで生息していたかによって栽培適温が左右されることです。新芽が現れない、現状維持あるいはじり貧状態になるなどの原因の一つは、これまでの生息環境温度との違いが考えられます。本サイトでも2年ほど前、マレーシアからの入荷株を高温にて栽培したとき現状維持が長く続き、やがて葉が落ちた経験があります。はたして温度以外に原因が見当たらないことから、残っていた株をやや低温に移した結果、新芽が現れるようになりました。Bulb. claptonenseも同じような経験をしました。こうしたことから、入手される場合はこれまでの生息域あるいは栽培の適応温度を販売者に確認するか、不明であれば夏季は32℃以下の場所に置くことなどで様子を見るなど注意が必要と思います。また開花(花芽の発生)のトリガーは昼夜の温度差が10 – 15℃程度になることが必要のようです。

種名がまだ決まらない?Bulbophyllum sp 2種

 前項で取り上げた新種名Bulb. irianaeと同時に2016年12月に入荷したBulb. sp (restrepia-like yellow)と、2017年5月入荷のBulb. sp (lip yellow)は未だ名称が決まらないのか、情報はspのままとなっています。いずれもニューギニアからの低地生息種で中-高温タイプと思われます。

 Bulb. sp (restrepia-like yellow)はBulb. restrepiaと比べラテラルセパルが長く、反面Bulb. contortisepalumにある捩じれがありません。現状Hoplandra節のネット検索では該当種が見当たりません。ドーサルセパルが黄色、ラテラルセパルの基部から先端にかけて半分がマンダリンオレンジ、半分が黄色のフォームが特徴です。セパル・ペタルの色合いで種別を判定するのは科学的ではなく、orchidspecies.comにはスケッチ図でBulb. obovatifolium(Synonyms:Bulb. harposepalum)があり、記述では似ていますが情報が少なく可能性が高いと言ったところです。

 一方、Bulb. sp (lip yellow)は2017年5-6月の歳月記に記載しましたが、ユーニクな花フォームで開花するとリップの黄色が他のバルボフィラムには見られない程の鮮やかさで印象が強く、未だ種名が決まらないのは不思議です。すでにいずれかのジャーナルに新種名があるのかも知れません。Bulbophyllum alkmaarenseに似ていますが葉形状や花の細部は異なっています。codonosiphon節のネット検索では今の所、該当種が見当たりません。

Bulb. sp (restrepia-like yellow)
Bulb. sp (restrepia-like yellow)
Bulb. sp (lip yellow)
Bulb. sp (lip yellow)

種名が決まった新種のBulbophyllum sp

 2016年10月に本サイトが入手したBulb. sp (Sarawak yellow)と、同年12月のBulb. sp (obovatifolium red) が今年のドイツ・ジャーナルOrchideen 2018 Vol. 4_9とOrchideen 2018 Vol.6_5にそれぞれ新種として発表されました。種名はBulb. isabellinumBulb. irianaeです。同誌によるとBulb. isabellinumはボルネオ島Kalimantan標高100mに生息、2015年1月に発見とされ、さらに栽培での開花は2017年10月と記載されています。本サイトで扱った同種はKalimantanではなくSarawakで歳月記には2017年2月に最初の開花を掲載しておりジャーナルに書かれた時期より8か月ほど先行していたことになります。一方、Bullb. irianaeはパプアニューギニア標高300mに生息、2018年の命名となります。本サイトでは2017年7月にBulbophyllum obovatifolium redとして開花画像を掲載しました。

 写真1, 2がこれまでBulb. sp Sarawak yellowと仮称していた新種名Bulb. isabellinum、写真3,4はBulb. obovatifolium redと仮称していたBulb. irianaeです。写真2, 4は現在の栽培状態を示しBulb. isabellinumは昨年から今年のサンシャインや東京ドームラン展に出品し販売を行いました。その時点と比べると、葉はかなりしっかりと大きくなっており、花写真に見られるようにCirrhopetalumrらしく当初の2-3輪から6輪と開花数も増えました。一方、Bulb. irianaeは人気もあり8割方が趣味家に渡りました。通常売れ残り株は訳あり株のため適時廃棄するのですが、最近はこうした見捨てられている1-2バルブ株を捨てるのも忍び難く、根張りの良いバーク(米松)木片に移し替え、寄植えの大株に仕立てています。写真4がその一つです。

 本サイトではしばしば記載しているように現在、バルボフィラムやデンドロビウムなど、spをかなり栽培しており、特にフィリピンPalawanやMindanao、またニューギニアなど多くのspが開花待ちの状態です。ジャーナル発表前に当サイトが新種を公開するのも変ですが、情報社会における世界同時性は未知のランの供給も同じで、ネットを通して生息国サプライヤーと直結することで、むしろ分類学者や研究者よりも、趣味家の方が先行して新種を入手する可能性も高くなり、今後は一層こうした事例が増えると思われます。

写真1Bulb. isabellinum
写真2 Bulb. isabellinum
写真3 Bulb. irianae
写真4 Bulb. irianae

バルボフィラム3種

 マレーシア経由でインドネシアから入手したバルボフィラム3点です。左の花画像はサプライヤーからのコピーです。右は植え付け後の株です。最上段はパプアニューギニアからでBulb. zebrinumの形状に似ていますがベース色が赤みが強いことと、セパルに細毛がある点で異なります。現在それぞれ2,500円で販売しています。

Bulb. sp (Zebrinum-like)
Bulb. sp (Zebrinum-like)
Bulb. sp (aberrans-like)
Bulb. sp (aberrans-like)
Bulb. zebrinum
Bulb. zebrinum

台風で始まった10月その2

 7月から先月初旬までにフィリピン2回、マレーシア1回の訪問と、タイからのEMSで合わせて1,500株程のランを入荷しました。その9割が炭化コルク付けのため1株の植え込みに掛かる時間は材料の裁断等の準備を含めると1株当たり平均15分程となり、これだけの株数となると先が見えない状態でしたがようやく終盤を迎えています。温室訪問の方も増え、発送も一部始まりました。 

 先日の台風24号の被害は想像以上に甚大で静岡県では昨日になって停電が完全復旧したそうです。結局地域によっては5日掛かったことになります。一方、不思議なことと思いながらも台風が去った翌日から自宅の植木の葉が急に枯れ始め、本日6日には一夜で、裏口に続く庭は下写真の落葉です。本日これが台風による塩害が原因とTVのニュースで初めて知りました。浜松では至る所でこうした状況のようです。本サイトの温室は海から7-8㎞程離れており全く想像外のことです。地元の人によるとこれまで経験したことのない事態とのことです。問題はビニールハウスが壊れたものの中の作物が飛ばされることがなくても、塩分を含む雨により、例えばイチゴなどはほとんどの葉が枯れてしまったそうです。台風の来襲と高潮時が同じであったことが原因のようです。温室の雨漏れもなく、また外にランを置いてもおらず安堵しているところです。

台風で始まった10月

 本サイトの温室がある浜松西区では10月1日0:00、台風24号の最接近時となり観測史上2番目となる風速42mを記録しました。この値はトラックを横転させるほどの強風とのことです。この結果、浜松市では凡そ8割となる27万戸が停電となり完全復旧は明日2日までかかることになりました。温暖な気候の浜松では農作物や果物栽培のビニールハウスが多く、本サイトの温室のメンテナンスを委託している業者からの午後の電話によると、今回程の強風に対しては為すすべもなく、殆んどのビニールハウスがこれまで経験のないほど多数で倒壊し悲惨な状況になっているそうです。

 本サイトの温室は、鉄筋でポリカーボネイト壁材を用いており、また先々月の台風20号の本土上陸前に温室屋根のビスを打ち直し補強をしていたことで、幸いに事無きを得ました。また新興住宅地である大平台は停電もなく、台風が去った明け方からは普段通りの生活となりました。今回の暴風が本サイトの温室に何の被害も与えなかったもう一つの原因は、会津から移って僅か5年ですが、当初から背の高い庭木や松、楠木、桜、ミズナラなどを住居を含め温室を取り囲むよう密集して植林したことで、これらが防風林の役割をしたようです。強風に煽られ撓る木々の様子を見ていると、想像を超える風圧を吸収してくれているのだと改めて感じました。今回台風の暴風域に入ってしまった地域の趣味家の方々も多いと思います。温室やランに被害が無ければよいと願うのですが。