この種名からBulb. echinolabiumならば持っている、あるいはBulb. echinolabiumのスペルミスではと思われる方も多いのではと思います。Bulb. **labiumではなく、**chilumです。7-8年前にフィリピンケソン市のラン展Flora Filipina Expoにて1株入手しました。当方もBulb. echinolabiumを買うつもりでしたが、それにしてはバルブ形状が饅頭のようでおかしいなと思いつつも購入したものです。胡蝶蘭原種と同じ環境で栽培を始めましたが、花は咲かず株も古いバルブが枯れるとその分だけ新しいバルブが発生する繰り返しで、鳴かず飛ばずの現状維持が続き、かと言って枯れる訳でもなく、やがて忘れ去られたかのようにヘゴ板に取りつけたまま温室の片隅に吊り下げられていました。そうした中、2年程前のバルボフィラム植え替え時期を迎え、古くなったヘゴ板と株の様子からこれを廃棄するかどうか考えながらも、取り敢えずは古く擦れたラベルに書かれた種名をネットで調べて見ることにしました。そこで初めて本種の素性を知りました。
orchidspecies.comによると本種は100年近く前にフィリピンで記録され、その後は見つからず絶滅したと思われていたそうですが、最近になりインドネシア領スラウエシ島の標高900-1,000mのコケ林で本種が撮影された、とあります。フィリピンで入手した株に付いていたでラベルを見たところ所有者の名前か地域名かの文字があり、これは粗末には出来ないと炭化コルクに移し替え、本サイトのバルボフィラムサムネールも2016年に更新しました。またJ. Cootes氏の著書ではルソン島の2か所の山に生息すると記載されています。果たして生息数が多いのか希少種なのかは不明ですが、一見、花茎と花付きが似た種のBulb. sauroephalumはマーケットでよく見かけるものの本種は入手以来見たことがありません。
生息域情報からそれまでの高温からBulb. lasioglossumの置かれた中温室に移し替えたところ、別種の如く成長が盛んとなり、一株が現在4株(1株は10バルブ以上)まで増え、その内3株に今月花茎が付きました。胡蝶蘭では頂芽優先の特性があり、これは脇芽を発生するよりも頂芽の成長を優先します。そのため繁殖は主に高芽となります。バルブフィラムにおいてはリゾームが損傷を受けた場合に、バルブ基部のもう一つの成長点が目覚めて新たな成長芽を発生させる性質が、特にリゾームの長い大型のバルボフィラムによく見られます。一方、本種はしばしば一つのバルブから2つの成長芽が発生します。栽培経験からはバルブが平ぺったい品種にこの性質が多いように思われます。これが本種の短期間での繁殖となっています。
下写真は開花が始まった直後の株と花を撮影したものです。花の姿が捉えにくく反時計回りに90°回転してみると分かり易くなります。カールした2枚がラテラルセパルでドーサルセパルは花茎にピッタリと接触している方です。ペタルは小さくて分かり難いです。蕊柱を覆い隠しポリネーターをも拒むような、このたわしの様なリップの髭は何を目的に数千年もかけて進化したのか不思議です。7mm程の小さな花で1週間程で15-20輪程になると思います。またリップの細毛と形状を見るとスラウエシ島生息種の画像とは異なり地域差があるようです。同じHirtula節にはBulb. jolandaeや前記したxenosumが含まれます。
Bulb. echinochilum
Bulb. echinochilum
Bulb. echinochilum