Paraphalaenopsis serpentiligua

 Paraphalaenopsisは4種が知られており、いずれもボルネオ島固有種です。その中でParaphal. serpentiliguaは標高1,000m以下の生息種で、Parapal. deneveiと共に野生株は数が少なく希少種の一つです。市場の多くは実生と言われています。昨年12月に30株程入手し炭化コルク付けで栽培をしています。1月からいずれかが開花しており、この4か月間は花が絶えることがありません。今回のロットの花は白色で、15年程前に入手したロットには薄ピンクもありました。今月末そうした中で薄黄色の花が咲きました。色見本を参照して名前を付けるとすると、Lightgoldenrodyellow色という何とも長い名前で、該当する日本語がありません。敢えて付ければ淡キリン草色とのことです。カメラで撮ってもハッキリしないため純白色を背景にこれまでの白色花と比較してみました。この色は過去15年間程で2回目です。左写真が白色(左)と今回の薄黄色フォーム(右)で中央写真が今回の花、右写真がこれまでの白色花です。

 ちなみに先週マレーシアよりかなり大きなParaphal. labukensisが入荷したとのメールがありサンシャインラン展にParaphalは3種程出品予定です。

Paraphal. serpentilingua
pale yellow form
white form

Vanda merrillii var. rotorii

 現在浜松温室ではVanda merrillii var. rotoriiのクラスター株が4株同時開花中です。変種ではないVanda merrilliiは1か月程早く開花が終了しました。セパル・ペタル全体が濃赤色のvar. rotoriiは、その濃度の違いやセパルペタルの基部に僅かな黄味が残るフォームが見られます。今回開花した株の一つは葡萄茶(えびちゃ)色で一段と濃色であったので撮影してみました。Vanda merrilliiはルソン島Nueva Ecija州を中心とした低地生息種で本種が生息する地域はコメを中心とするプランテーションが進み現在は絶滅状態にあるそうです。

Vanda merrillii var. rotorii
Vanda merrillii var. rotorii

Phalaenopsis hieroglyphica

 フィリピン生息の本種はセパル・ペタルの斑点がヒエログリフ文字に似ていることから付けらた名前です。本種にはPhal. lueddemannianaと同様にルソン島からミンダナオ島までフィリピン全土に広く分布しており、またそれらの生息域も似ていることからそれぞれがもつフォームの一部が互いに混在する中間体と思われる種が多く存在します。詳細は本サイトのphal. lueddemannianaのページで多数のサンプル画像が見られます。

 そうした中、12月ルソン島からの入荷株の中から典型的なPhal. hieroglyphicaの特徴をもつ株が開花しました。通常はセパル・ペタルのベース色はクリーム色か薄黄色が多いのですが、開花した花は白色をベースとする上品なフォーム(写真1)で、ヒエログリフィックな斑点を始め、リップ先端の剣菱形状(写真2)と、ラテラルセパル先端(写真3)が細く尖ったPhal. hieroglyphicaの典型的な形状となっています。E. A. Chiristenson氏はその特徴を、それらの形状以外にPhal. hieroglyphicaPhal. lueddemannianaに比べ同時開花数が多いことも挙げており、またJ. Cootes氏は生息場所は低輝度と延べています。

 本種の市場に見られるのほとんどの販売形態は素焼き鉢にミズゴケ植えです。こうした株の多くは実生と思われます。野生栽培株は昨年の歳月記12月の’胡蝶蘭原種大株’の標題ページに画像を掲載したように成長した株は下垂形状となりポット植えは適しません。苗の段階からポットに植付け、茎を上向きで葉を左右に展開する栽培法ではPhal. lueddemanniana同様に株は野生栽培株に見られるような大きさにはならずほぼ一定で、花茎は葉の下で水平に伸長することから花向きが定まらず雑に咲いている景色となり、長く垂れた葉の間から花茎が現れ、葉を背景に花が顔を出しているような優雅さは得られません。

写真1 Phal. hieroglyphica
写真2 Phal. hieroglyphica
写真3 Phal. hieroglyphica

Dendrobium amboinenseとPhalaenopsis appendiculata

 上記の2種が現在開花中です。いずれも個性のある原種で下写真を本日(23日)撮影しました。Den. amboinenseは短命花ですが凡そ他のデンドロビウムには見られない独特の花形状をもち、これがDen. balzerianumorbilobulatumと同じFugacia節とは、バルブ形状や花寿命は似ているもののまるで花の姿は異なります。一方Phal. appendiculataはボルネオ島生息種で栽培の難易度が高いことで知られています。花の大きさは対称的です。

 当サイトでは15株程のDen. amboinenseを在庫しています。在庫株はいずれも花が大きく、一枚のセパルは10㎝長が普通で11㎝長(セパルあるいはペタルの両端間の一般表現では23㎝)のものもあります。ニューギニアの北西Pulau Ambon島の固有種で浜松では春秋2回開花します。

 Phal. appendiculataは1.5㎝程の小型の花です。通常はヘゴ板やコルク付けとなりますが、これら支持材での栽培では水分不足となりがちで多くの栽培者を手こずらせています。株サイズに合わせて小さな支持材となる傾向があり、このため乾燥が進み易くなることが原因の一つです。当サイトでは炭化コルク付けですが、元気がなくなるとしばしば素焼き鉢にミズゴケを入れ、これにコルクを1/3程差し込んで立て低輝度環境に置き、コルクの下部が常に湿っているようにします。この方法以外ではコルクに多めのミズゴケで団子状にして植え付けても上手く育つのではないかと思います。半透明ビニールポットにミズゴケで植え付け、常にミズゴケが濡れた状態であってもよく育ちます。マレーシアラン園のほとんどがこの方法です。但し本種は葉の下に開花するため、ポット植えでは花が良く見えません。販売保管向けの植え込み手段です。orchidspecies.comではマレーシアPahang州のコケ林に生息と記載されていますが、セレンバンで30年近く運営するラン園主の話では、この地域には30-40年前はPhal. appendiculataPhal. maculataが生息していたが、他国や他地域のコレクターによる乱獲またプランテーションによってすでに絶滅したとのことです。現在の株はボルネオ島由来とのことです。

Den. amboinense
Den. amboinense
Phal. appendiculata

従来の習慣とは異なる植付け

 AeridesやVandaの従来からの植えつけは、種によってポットに大粒バーク、バスケットあるいはベアールートでの吊るしが一般的です。またデンドロビウムはポット、バスケット、ヘゴ板などこちらも種によって様々です。特にSpatulata節はほぼ例外なくポット植えで、海外では多くが植え込み材として炭を用いています。本サイトではこうしたこれまでの植え付け方法を変え、植替え時期を機にその多くを炭化コルクに切り替えています。自然界における生息様態が木やその幹あるいは岩などに着生する性質から、しばしば新しい成長芽や根の発生位置がポット形状には即していないとの思惑からです。

 こうした気根植物の植え付けにおいてポットに植えることで過水や気相が不足して根をダメにしたり、あるいは小さなバスケットを根元に付けて吊るし、根のほとんどを空気に晒すものの結果として水分不足で株が痩せてしまったり、新根がある程度伸長すると先端が黒変して止まるなどで株が大きくならないことに悩む趣味家も多いと思います。いわゆるそれぞれの種に合った温度、湿度、通風、支持材、植え込み材、肥料等の壁に突き当たることになります。ある種には良いのだが、ある種には良くないと言った問題です。

 そうした背景から本サイトでは根に関して、ポットでは得られない高い通気性と、吊り下げ型にはない保水力、さらにSpatulata節のデンドロビウムには成長芽が活着しやすい面を提供する植付けとして炭化コルクを用いることにしました。コルクは2つの形状を用意し、AeridesやVandaは平面(長方形で50-60㎝x12㎝x3㎝)板、Spatulata節には角柱(60㎝x8㎝x5㎝)です。下画像は2月末から今月にかけて炭化コルクに植え付けた合わせて60株のAerides(odorata alba, magnifica alba, migueldavidii, magnifica, leeanaなど)の一部です。全てコルクに薄くミズゴケを敷き、その上に根を置いただけの取り付けです。大半は入荷時BS株であるため根は四方八方に伸長しており、硬い根もあり曲げて板に押さえられる根だけを板に取り付けたものです。この板付により胡蝶蘭やデンドロビウム原種と同じ場所に同じように吊るすことができ、またかん水量や頻度も他属と区別することなく与えています。僅か2ヶ月程でほぼ全株に新根(下写真で先端が緑や褐色の白い根は全て取り付け後に発生)が出ており、根にとっては適度な保水性と通風が得られたことで、現地からの入荷時に見られた乾燥による細かな葉の皺もほとんどが消え下写真のように葉に張りが出て来たように思います。

昔と今

 下左写真は2015年東京ドームラン展に出店した時の当サイトのブース内に展示したPhal. stuartianaクラスター株です。これで1株です。また右は2016年同じくドームラン展にてブース内に展示したPhal. schillerianaクラスター株です。いずれも今日これだけの原種大株を入手することは難しく、現在フィリピン現地において再び探してもらっているところです。これらの株は残念ながらその後、半年程で作落ちがひどくなり、子株に株分けをせざるを得なくなり現在はありません。その原因はドーム出品の梱包から展示までの凡そ2週間余りの期間、胡蝶蘭原種にとって過酷な環境に置かれたことによるものでした。これだけの輪花数を同時開花している株にとっては相当の負荷がかかっていたところに、さらにドーム内でのメタルラックに触ると静電気でビシッと音がするほどの乾燥状態と共に夜間の低温に10日程晒されたことで回復不能となった訳です。特に2015年は本サイトにとっては出店初回で、場内がこれほどの乾燥と低温になるとは思っておらず初日から2日程はそのままで、3日目から散水を行うものの展示終了後の夜なってからの僅かな散水のみでした。これを教訓に2016年はやや小ぶりのPhal. schillerianaクラスターに替え、毎晩散水はしたもののこちらも半年ほどで株は弱まってしまいました。

 こうした経験から、2017年のドームは出店を中止し、サンシャインラン展に切り替えました。こちらは開催期間が5日間と比較的短期間であることと、散水は朝と、来場者が少なくなったところを見計らっての昼間、また夜はたっぷりの散水を行うことで、戻り株を見ても出品した株での作落ちは見られなくなりました。今年のドームラン展は環境は従来と同じでしたが、そうした経験から毎日3回の散水を行いました。しかし毎日の胡蝶蘭原種の微妙な変化を見ていると、ドームの環境では据え付け日を含め5日が限度で今年は2月14日の搬送から18日の月曜日までとし月曜日の夜に胡蝶蘭原種だけを浜松温室に引き上げることにしました。今回の胡蝶蘭は特に希少な特大サイズの野生栽培株が数多く、危険と感じた訳です。そのため火曜日以降来られた方は当ブースにて胡蝶蘭だけは入手することが出来なくなってしまいました。当サイトにとってラン展は、販売は勿論ですが、実際栽培をしている状態そのもの(植付け方法、植え込み材、株の状態)を直に見てもらうことも大きな目的であり、海外ラン園に見られるように長期間保管販売するために透明紙で包んだり、ビニールパックに入れたりすることはしません。海外から国内への搬送と、ドームの環境下における販売、さらに輸出入検疫に対応するにはこうした出品方法が不可欠とは思いますが、当サイトは来場者が栽培の実体が見られることも重視しています。この結果、栽培場所からそのままを持ち出した形態であるが故に、購入された方にとっては持ち帰って自身の温室にそのまま据え付け、栽培を始めることが出来る反面、想定外の外部環境には影響されやすくなります。購入者の栽培環境と合わないような場合も当然想定されますが、胡蝶蘭原種対応のそれなりの温度、湿度、輝度、通風があり、ラン展会場のような環境でもない限り、春と秋の植え替え適期に栽培者の環境により合った植え替えを勧めています。

 4年ほど前に本サイトでも取り上げましたが、上記のようなラン展出品の経験から、特に胡蝶蘭原種については初日から3日以内に入手するようにと勧めています。温度や湿度管理が十分で、かなりの栽培経験のある方は順化技術もあり問題ないと思いますが、4日以上遅れての購入は避けた方がよいかと思います。まして初心者にとっては最終日の購入はお金を捨てるようなものです。もっとも好ましいのはプレオーダーをし、初日あるいは2日目に受け取る方法です。プレオーダーは当サイトではラン展出荷日前日に梱包するため当温室からもっとも短期間で入手ができ、宅配便と変わりません。

 よくラン愛好会の方と話をする機会があり、ラン展に出品展示されている見事に開花している株は、ドームラン展のような長期間の環境に置いてその後大丈夫なのかどうか伺うことがあります。十中八九作落ちが起こるとのことです。このため出品は覚悟をしなければならないそうです。同じような勢いで次の年も開花したケースはこれまで見たことが無いそうです。

 話は戻りますが、もし下写真左のような開花株が再び得られれば、多くの方は開花している実物を展示会で見たいのではと思います。高温多湿の特別室でも用意して頂き、これまでに無い特大サイズのPhal. mariaelueddemanniaeなども含め、写真のような花に微風をあてて一斉に、胡蝶蘭由来の蝶が舞うが如く花が揺れる様子を演出できたら面白そうです。ワイヤーで弓なりに成形され微動だにしない慶弔用胡蝶蘭とは違った、そうした自然を映した光景から、これこそが野生ランの凄さと感じてもらう意味で、再び出品しようかとも思うのですが。

Phal. stuartiana Cluster
Phal. schilleriana Cluster

Phalaenopsis inscriptisionensis

 胡蝶蘭原種の中で最も長い名前を持つ本種はスマトラ島中央部低地に生息します。過ってPhal. sumatranaと混同した時期があったようです。本種Phal. sumatranaとはposteriorカルス形状が異なります。orchidspecies.comによると通常、同時開花輪花数は2-5輪と記載されています。しかし株が成熟すると多数の花茎が発生するため、現在開花中の下写真(19日撮影)に見られるような多輪花となります。晩秋を含め開花期は年2回です。本種は栽培は容易ですが葉の下に開花し、またけっして葉からはみ出すことがないため、株は目の位置より上に吊るしての栽培が必要となります。

Phal. inscriptiosinensis
Phal. inscriptiosinensis

Epicrianthes(Bulbophyllum) jimcootesii

 2月にフィリピンにて入手したBulb. jimcootesiiが開花しました。花は1㎝程と小型ですが、Epicrianthes節特有のペタルに付いた左右それぞれ9本の髭が特徴です。OrchideenJournal Vol.6.2によれば本種はフィリピンミンダナオ島Bukidnon標高1,300mのコケ林に生息する2018年発表の直近の新種です。ミンダナオ島Bukidnonの1,300mとなれば中温から低温環境となるのですが、写真の株は胡蝶蘭Phal. amabilisなどを栽培する高温室にての開花となりました。殆んどの株は中温室にて栽培しているものの東京ドームに出品した戻り株で、忘れてそのまま高温室に置かれていたものです。開花にはやや高めの温度環境が良いのかも知れません。国内マーケット初の新種でもあり東京ドームラン展では3,000円で販売しました。来月のサンシャインラン展に2株ほど出品予定です。

Epicrianthes(Bulbophyllum) jimcootesii
Epicrianthes(Bulbophyllum) jimcootesii
Epicrianthes(Bulbophyllum) jimcootesii

忘れかけたBulbophyllum spの植替え

 2016-17年頃に入荷したスマトラ島生息のBulb.spの内、温室の片隅に置かれたままのバルボフィラムを現在見直しており、その後も種名が分からないままであることと、現地での入荷がその後途絶えているものを選び出し、それまでの杉板から炭化コルクに植え替え直し、これまで与えたことはなかった液肥を与え様子を見ることにしました。それらの一部が下写真のバルボフィラム3点で、希少性があるのではと現在思っています。

Bulb. sp1
Bulb. sp1
Bulb. sp1
Bulb. sp2
Bulb. sp2
Bulb. sp2
Bulb. sp3
Bulb. sp3
Bulb. sp3