Dendrobium tobaense

 Den. tobaenseはその個性ある花フォームから高い人気が変わることなく、ラン展への出品ではいつも売り切れてしまう品種の一つです。本サイトではBS株を4年前の東京ドームラン展以来それまでの市場価格のほぼ1/2から1/3で販売してきましたが、それでもデンドロビウムの中では比較的高価な種であることは変りません。浜松温室では6月が開花の最盛期となり、現在多くの株で蕾を付けており、今回のサンシャインラン展には野生栽培株の蕾付を5点ほど出品する予定です。下写真は2日前に開花した今回出品するものですが左右ラテラルセパルのスパンは11㎝弱で、緑色のやや濃いフォームです。

 本種の花のサイズは株サイズ、特に疑似バルブ(茎)の太さに比例し、これは同じく出品予定のDen. papilioと共通した特性です。写真2は茎の長さを示すもので全長が15㎝程です。つまりこの株は花と茎サイズ比が1.5倍と、茎の長さがかなり短いにもかかわらず大きな花を付けていることになります。30㎝程に成長した時の開花時の景色が期待されます。現在本種は中温室にて全て炭化コルク付けの栽培です。今月から多くの株に、固形肥料(グリーンキング)を入れた肥料ケースを炭化コルク上部に取りつけています。

写真1 Den. tobaense
写真2 Den. tobaense

アリの巣玉

 昨年、Purificacion Orchidsからアリの巣玉(Hydnophylum formicarum)1株をサンシャインラン展の売れ残り品として引き取りました。塊茎の直径が7-8cm程で、浜松では温室の片隅に1年近く捨て置かれ、すっかり忘れ去られていました。それを今年の東京ドームラン展に果たして買う人がいるのかどうか半信半疑のまま出品してみたところ、初日で売れてしまいました。これほど奇怪な形をした植物がなぜと、ラン展後にネットで調べたところ、僅か10cmも満たない程の塊茎で15,000円以上が普通という、関心の無い者にとって、ここにも理解不可能な世界があることに気付きました。

 フィリピンを訪問する度にポットに乗った数百のアリの巣玉を見て、どんな人たちがこの観葉植物ならぬ観茎植物を買うのかとは思っていたものの、ラン属でもなくそれほど興味はありませんでした。しかし東京ドームラン展でのことや、国内には取扱店がほとんどないことから高価であることが分かり、サンシャインラン展にも数点出品してみようと取寄せてみました。果たして趣味家は何処に、この木に魅力を感じるのか。塊茎植物がアリに住居を提供する一方で、アリはこの植物を害虫から守り、さらにアリの食べ残しやフンをこの植物は栄養源とする。確かに地上には生きられない着生植物と、アリといえども地上には敵が多くて生きられない種もいるのであろうもの同士が互いに手を組んで共に生きる、そう考えると、こうした不思議な自然の共生進化の実物体を手にできることの好奇心と話題性からかと。

 それでは、その話題性をさらに高めることはできないか、かなり大きな、と言っても部屋や温室に置く限りバレーボールサイズが限度ですが、このサイズならば既存の園芸店との差別化もでき面白いのではと考えました。そのバレーボールサイズを含むアリの巣玉がDENR(Department of Environmen and Natural Resources)が発行するWildlife Export Certification (野生種輸出証明書。いわゆるランで譬えればCITESのような輸出許可書です)と共に送られてきました。それが下写真です。写真1-2はHydnophytlum formicarumで、それぞれの写真で塊茎の黒あるいは茶褐色の部分はかん水により濡れている間の色変わりです。写真2は左右幅26㎝の塊茎をもつ大株です。

 写真3-4はMyrmecodia tuberosaで、写真4は1株が3つの塊茎からなる大株です。問題はこれらの植え付けです。ネット写真からはほとんどの株はポットに乗せられています。中には木であるという先入観からか植え込み材に土のようなものが使われている画像もあります。根が短く細毛が多いことから精々植え込み材の上に乗っているだけの状態になり、株が小さければかん水時に安定しません。すんなりと枝が立っているものはそれでも良いのですが、これらは着生植物で枝は様々な方向であったり、塊茎も形は様々です。本サイトでは、枝の伸長方向に倣って枝が上を向くように、傾き調整可能な取り付けとするため、5cm厚の炭化コルクにミズゴケを敷きその上に本種を固定することにしました。根のある部分の凹凸はクリプトモスとミズゴケミックスを詰め平坦にしての取り付けです。このあたりの植え込み技術はラン栽培者ならではの経験と勘です。価格については一般サイズは若者が主な顧客と考えられ、買いやすくするためネットで見られる2018年度の一般市場価格の半額程度を予定しています。これを機会にラン原種にも関心を持ってもらえれば良いのですが。 大株の価格は未定です。代表的な種のほとんどはランと同じ温度、湿度、通風、施肥での栽培が可能でラン温室に同居させれば良く育つと思います。

写真1 HYdnophytum formicarum
写真2 HYdnophytum formicarum
写真3 Myrmecodia tuberosa
写真4 Myrmecodia tuberosa

Coelogyne exalata

 来週木曜日から日曜日までの4日間サンシャインラン展が開催されます。本サイトは1.5ブースサイズで出店します。そのため現在は準備で大忙しの状態です。東京ドームラン展で行ったプレオーダーは今回のサンシャインラン展では予定していません。海外からの入荷が今週末かラン展直前になる状況で、ラン展とプレオーダー向けの平行作業が困難なためです。Aerides、Bulbophyllum、Dendrobiumでは珍しい種も入荷予定で状態が良ければ、これらは本サイトにとってのラン展会場での初売りとなります。東京ドームラン展では少量多品種で品種当たり3-4株でしたが、そのため売り切れとなったランも何点かありました。現在これらを優先して出品作業を進めています。

 その中の一つにCoel. exalataがあります。ボルネオ島Sabah生息種でマーケットでの入手が比較的難しいことと、セロジネとしては珍しいセパル・ペタルおよびリップの花被片全てがマスカットグリーンの上品な色合いであることから人気が高いと考えられます。600m – 2,700mの生息種であり、中温から低温タイプとされます。しかし入荷時よりその情報を基に中温室に2年間置いていたのですが一向に開花が見られず株も現状維持で、こうなれば枯れも止む無しと、年の暮れに胡蝶蘭環境と同じ高温室に移動しました。驚いたことに翌年の春から新芽が出始め、初夏には次々と開花が始まりました。それ以来夏季の昼間35℃近くになる環境であっても高温室から移動させることなくそのままにしているものの毎年開花が続きます。高温室は年間を通し最低温度が18℃以下にはならず、これではまるで高温タイプのセロジネです。

 考えられるのは本種の生息域として標高差が2,000mと大きく、たまたま入手した20株程のロットはその中でも最も低地となる600m付近の生息株であったに違いありません。こうした広範囲な標高域をもつ種は殆んどの属に数種存在し、最近ではクール温室に置いていたもののBS株でありながら1年以上開花しない場合は中温へ、それでも開花しない場合は高温室へと順次移しています。その逆もあります。一方、輝度も開花に大きく影響を与えます。低輝度から高輝度にすることで開花が始まる例はバルボフィラムやVandaではよくあります。さらに温度と輝度は開花だけでなく、多くのランの花色(特に赤と青系)にも影響を与えます。こうした状況から本サイトでも新しく入荷したランは1年間の栽培観察により温室内を常に移動しており、7 – 8,000株程を込み入った中で栽培していると、やがてどこに何があるのか分からなくなるのもしばしばです。

 9日撮影の下写真は今回のラン展出品のため新しく植え替えを行ったCoel. exalataで、全ての株が新芽付きです。植え付けはセロジネの本サイト定番となるスリット鉢にミズゴケとクリプトモスの 1:3ミックスです。Coel. odoardiiや希少種のCoel. palawanensisも今回出品予定です。

Coel. exalata
Coel. exalata

Bulbophyllum recurvilabre

 今月に入り開花した本種はフィリピンレイテ島の固有種で1999年に命名された新種です。光沢のある黄色ベースのセパルペタルに、細かな赤い斑点がランダムに入り、Bulb. trigonosepalum complex(Bulb nymphopolitanum、Bulb papulosum、Bulb basisetumなど)の中では異彩を放っています。なぜ低地(500m)生息で8㎝もあるこれほど目立つ花が2000年近くまで見つからなかったのか不思議です。生息数が少ないのか、これまで人が入ることのなかった狭い地域に生息していたのか、今のところ情報がなく不明です。高温タイプであり、杉板とバスケットの2種類に植え付けています。サンシャインラン展に1-2品と僅かですが開花株を出品します。花付きのため初日に売り切れてしまうかも知れません。

Bulbophyllum recurvilabre
Bulbophyllum recurvilabre

Dendrobium officinale

 本種は鉄皮セッコクと呼ばれ、中国の高貴漢方薬草として有名なデンドロビウムです。胃腸病、慢性胃炎、解熱、強壮などに効くそうです。本サイトが最初に入手したのは10年ほど前で、中国雲南省帰りの友人が生薬として持ち帰った100本程の茎(疑似バルブ)の中から30本頂いたものでした。アスパラのように短く切断されていました。この生薬をどうして口に入れるのかと友人に聞いたところ煎じて飲むとのことでした。薬になる程ならば相当にがいに違いないと興味本位で齧ってみたところ生そのままの茎であり、それではと面白半分で茎伏せをしました。周りにある胡蝶蘭原種に囲まれながら、やがて芽や根が出始めどんどん大きくなりました。下写真3が僅か3節分の茎から育った株の一つです。この茎はクローン苗と思われ、茎が太く長く6-70㎝程にストレートに伸びる形状で写真のように多輪花性でもあり見た目には華やかなものです。おそらく漢方薬としてはこの花の咲く前に刈り取られるのであろうと想像します。数年間交配を試みたのですが胚のあるタネを採ることができず、茎伏せで増殖する以外ないかと今年に入り3節ごとに切断して様子を見ているところです。

 一方、昨年末に野生株を新たに手に入れようとCITES申請を依頼し打診していたところ、今年1月のマレーシア訪問で1株のみクラスター株が入荷していました。ヘゴ板にしっかりと活着していたところを見ると、華系の人の多いマレーシアであり、強壮剤にしようとこれまで趣味家が育てていたものを一つ失敬してしまったのではないかと思ってしまいます。しかし茎伏せで得た株とは形状がかなり異なっていました。そこで帰国後にネットで調べたところ、雲南省の絶壁で腰に命綱を巻き、崖にぶら下がりながら、本種をコケと共に岩肌に植え付け自然栽培している写真が数点あり、この作業者が手に持っている株と形状がそっくりであることが分かりました。つまりこれまでの株(写真3)は漢方薬製造のために、いわゆる植物工場生産品として改良されたもののようです。1月に入手した株は下写真2で、クラスター株を5株に分けた一部です。2株程サンシャインラン展に出品予定です。

 本種は中温栽培ですが丈夫なデンドロビウムで、夏の高温時には風通しのよい軒下等に置いての栽培で問題ないと思います。完全な下垂タイプです。日本では5-6月が開花期のため来年の開花に期待しています。

写真1 Dendrobium officinale
写真2 Dendrobium officinale
写真3 Dendrobium officinale

交配のその後

 先月Den. aurantiflammeum、Den. olivaceum、Phal. gigantea Sabah3種の開花を機に自家交配を行いましたが、その後の子房の膨らみを撮影してみました。Den. aurantiflammeumの花は一般サイズの1.5倍程のセパル・ペタル長で、Den. olivaceumは緑色のflavaフォーム、またPhal. giganteaはセパルペタルが薄黄色の、それぞれフォームに特徴のある花です。特にDen. aurantiflammeumは3年目にして、ようやく受粉に成功したようで子房が大きくなっています。Phal. giganteaの子房は驚くほど短期間で、すでに10㎝程に伸長しています。

 交配から4か月程は温度や湿度環境に細心の注意を払わなければならないことは先月に述べました。もう一つの注意はこれらの種では交配後数週間でペタルセパルが縮れ枯れてゆくのですが、その過程で枯れて黒ずんだ部位にカビが発生し、これが子房に侵入することでさく果が腐敗し落ちてしまうことが多く、そのカビの発生を抑える対策が必要となることです。本サイトではこの処理の適期を見計らいカビ系の病害防除用薬品(例えばトリフミン)を2000倍程に薄めてその部位に塗布しています。野生株の入手が困難になる現在にあって、特に希少フォームの入手の機会を得るのは難しく、こうした実生化は今後一層、避けれらないと考えます。

 希少種を栽培している趣味家の方も多いと思いますが、どんな植物でもいずれは枯れます。タネを栽培者から受けてフラスコ苗を生産受注する業者もいると聞きます。世界に数株しかない種から自身の手でタネを採り数百数千株にするのも面白いと思います。試してみてはどうでしょうか。出来たフラスコ苗をラン屋さんに売るのも一興です。自分で交配から無菌培養で苗作りまで挑戦したい方は富山氏著「ラン科植物のクローン増殖」に実生化の貴重な情報が詳細に記載されており、本サイトもこの著書から10年ほど前に勉強させてもらい、Paph. sanderianumなどのパフィオペディラムまで実生化が出来るようになりました。

Den. aurantiflammeum
Den. aurantiflammeum
Den. olivaceum
Den. olivaceum
Phal. gigantea Sabah
Phal. gigantea Sabah

Dendrobium papilio

 昨年暮から100株以上のDen. papilioを炭化コルクに植え替え栽培をしています。6-7月が浜松温室では本種の開花期となりますが、植え替え後の初の開花時期となるためどれほどの株が開花するのか様子を見ているところです。先頭を切って1株が開花した花が下の写真です。ペタルのスパン(左右それそれの端間の長さ)が丁度10㎝でした。これまでの観察で花サイズは茎(疑似バルブ)の太さに比例するため、如何に栽培でこの茎を太く育てるか、固形有機肥料を肥料ケースに入れ実験的に20株程に与えて今年の発育を観察する計画です。

Den. papilio
Den. papilio

Phalaenopsis corningiana

 4月末から5月にかけて浜松温室ではボルネオ島低地生息のPhal. corningianaの開花期となります。下画像は29日現在開花中の4点を撮影したものです。写真1はリップがブルーで花被片全体に赤成分が抜けておりフォームは固定しています。3年前に入手し、その後の現地での入荷は途絶えています。今年の東京ドームラン展に1株出品しました。写真2はFernbrookフォームで10年以上も前にアメリカのOrchidviewから入手した株です。写真3は野生株によく見られるフォームです。写真4の株はほぼソリッドレッドフォームとなっています。これら4点の内、Fernbrookを除き他は野生栽培株で、とくに野生株の中での写真4のフォームは極めて稀です。

 写真4の画像をよく見ると開花した株の葉に3,500円の値札が付いています。昨年のサンシャインラン展(おそらく1月)に花の無い状態で、この値段で出品していたことになります。今回さっそく自家交配をすることにしました。本サイトでは、例えばサイズや色違いなどのフォーム別の管理は行わず同一種の中での区別は、変種およびalba, coerulea, aurea, punctataのみです。これら以外の株は同一価格での販売となります。よってサイズや個体差別の指定受注は行っていません。この結果、本サイトのページにある「胡蝶蘭原種のフォーム各種」のほとんどの写真の株は、カタログにある一般価格で買われていきました。常に新しい株と入れ替わっています。

写真1 Phalaenopsis corningiana
写真2 Phalaenopsis corningiana
写真3 Phalaenopsis corningiana
写真4 Phalaenopsis corningiana

Bulbophyllum whitfordii それとも Bulbophyllum megalanthum?

 現在、PalawanからのCheiriのような形状ではあるが黄色の花とされたBulb. spが複数で開花しています。同じロットの花は昨年12月の歳月記にBulbophyllum sp (cheiri-like yellow) Palawanとして取り上げました。Bulb. cheiri complex(近縁種)としてBulb. megaloanthumBulb. whitfordiiが知られていますが、この2種はBulb. cheiriとは花色、香りまたリップおよび蕊柱形状が異なります。一方、Bulb. megalanthumBulb. whitfordiiの違いは、後者がBulb. cheiriと同様に倒立開花していることとされます。このことから歳月記12月に開花した花は倒立ではなく一般的な直立姿勢であったためBulb. megalanthumとしました。

 しかし今回複数の株で開花している株の花は全て倒立しており、また2010年頃にはPalawan生息種としてBulb. whitfordiiは知られていたものの、Bulb. megalanthumは未確認で、結果としてこれらの情報からは今回開花している株はBulb. whitfordiiの可能性が高いことになります。これらBulb. cheiri complexはネット上の画像検索でも名称が曖昧で、画像が混在しています。orchidspecies.comにはこれらがシノニムの関係との記載もありますが、J. Cootes氏はこれら3種は別種としています。下画像は今回開花したPalawanから入荷のBulb. spです。写真1, 2の写真は別株ですが、写真2は反転して撮影したものです。

写真1 Bulb. whitfordii ?
写真2 Bulb. whitfordii ?

ランの用語

 ラン栽培をこれから始める方にとって、本サイトで何気なく表現している用語が分からないことも多いと思います。花、茎、葉等について解説したページが下のアドレスにあります。このページは2013年まで本サイトが管理していたもので、胡蝶蘭原種に関する情報を取り扱っていますが名称や形態解説の多くは他のランにも共通するところが多く、参考になると思います。

原種用語のページ