現在同時開花中の似たものデンドロビウム3点

 Den. kuhliiDen. rutriferumおよびDen. intricatumのそれぞれが現在浜松温室にて開花中です。前者2種はCalyptrochilum節、後者はCalcarifera節で節は異なりますが、花形状はそれぞれがほぼ同じサイズであり、少し離れて眺めると同じように見えます。下にそれぞれの画像を示します。これらはいずれもスリット入りプラスチックポットにミズゴケ100%あるいはミズゴケとクリプトモスミックスでよく育ちます。ただしDen. kuhliiは中温室となります。

Den. kuhlii (West Java 760 – 2,500m)
Den. rutriferum (New Guinea 600m)
Den. intricatum (Cambodia, Thailand, Vietnam low-land)

6月のスケジュール

 例年と異なり今年は海外訪問の機会が1月以来今月まで無くEMSでの入荷となっていました。この反動もあって、今月から来月初旬にかけてマレーシア、フィリピン、タイなど4か国を1-2週間間隔で訪問する予定で、それぞれ合わせて2,000株以上の注文を現在行っています。このため温室内では先月からこれまでの栽培結果に基づき株それぞれの適所への移動を含め、すでに満杯状態であったレイアウトを大幅に変更し、新入荷予定株の栽培スペース造りに追われています。今月半ばから入荷株の紹介ができると思います。

 とりわけ本サイトの原点とも言える胡蝶蘭原種の在庫が現在減少しており、5月のサンシャインラン展ではバルボフィラムが中心で胡蝶蘭は数品種しか出品できませんでした。こうしたことからおよそ胡蝶蘭55種の内、40種ほどの入荷も予定しています。またこれまでは余り手を付けていなかったベトナム、ミャンマー、雲南省からタイまでの品種も積極的に入手する予定です。

 本サイトではこうした新しい入荷に合わせて、素焼きやプラスチックポットとミズゴケの仮植え販売は極力無くし、 栽培経験に基づいたそれぞれの種に適した素材に植え付けた状態、あるいは栽培景色として見た目の良い形態での出荷を計画しています。先月取り上げたバーク木片はその一つです。株は一品ごとに商品として販売できますが、栽培経験という抽象的知識は販売できません。書で表現することも一つですが書ではその表現力に限界があります。経験をどのように目に見える形にするかは、出荷のための便宜上の仮植えや、ラン展での海外ラン園が良く用いるビニールパックに入れたベアールートではなく、栽培状態と変わらぬ姿を見せることが良いと考えます。素材を多様化することは仮植えに比べ割高になりますが、支持素材、植え込み材、取り付け方法など、これらは環境に依存する要素が多いため1例にすぎないものの趣味家がそれぞれの品種に適した栽培手法の実体を見ることができることも意義があると思います。

Dendrobium ayubii

 現在Den. ayubiiが開花を始めています。写真の株はDen. toppiorum Sumatra (subsp. taitayorum)で入荷したミスラベル株で、2年目を迎えます。同じSumatra島生息種であることからコレクターのストックヤードで混在したものと思われます。現在1輪が開花し、これから開花する蕾が3個あります。これまでの栽培経験では3輪が最多であったことから、一つの茎に4輪が同時開花すれば本サイトのDen. ayubiiとしては初めての輪花数となります。炭化コルク付けにしてからDen. tobaenseと同様に順調です。

Bulbophyllum incisilabrumとBulbophyllum claptonense

 Bulb. incisilabrumBulb. claptonenseが中温温室にて開花中です。前者はスラウエシ島、後者はボルネオ島のそれぞれ標高1000m前後に生息のため、日本の盛夏の暑さは嫌うようで、夏季は軒下等の風通しの良い場所に置くことが必要です。複数の花が同時に開花すると良く目立ちます。Bulb. claptonenseBulb. lobbiiと花形状が似ていますが、リップ中央弁の中央部に腺状突起(膨らみ)があり目視で確認出来ます。両者とも夜間はドーサルセパルが下がり、ペタルが前方に曲がり花を閉じます。高地雲霧林の生息種の特徴で夜露を凌ぐためと言われ、温室に移っても遺伝子に引継がれたその行為は変わりません。

Bulb. incisilabrum
Bulb. claptonense

Bulbophyllum cruentum giant

 ニューギニア生息種であるBulb. cruentumは花サイズが3-4cmの一般種と、5cm程のgiantと呼ばれる2つの異なるタイプがあり、マーケットでの価格は前者が2,000-3,000円に対し、後者はその10倍となっています。国内マーケットやサンシャインラン展の海外からのラン園でも4-5バルブで3万円となっていました。

 価格は主にその希少性で高い安いが決まるのですが、3年前に本サイトで取り上げたように、この希少性という言葉についての明確(定量的)な定義がなく、生息数が少ないのか、たまたま需要がこれまでに余りなく、マーケット実績数が少ないだけのことなのか、一部のラン園やオークションなどでは高く売りたい一心からか、希少という言葉が紹介欄に溢れています。原種に関して言えば、安価に入手したものを生息数の科学的な根拠もなく希少という言葉を利用して高額で販売しているのであれば、それはまさしく詐欺です。

 さて本種ですが、バルボフィラム市場としてはBulb. macrobulbonBulb. orthosepalumなどの次に高額となっています。本サイトでは数株を今回入手しましたが、果たして本種が希少種なのか、あるいはこれまでマーケットに流通が少なかっただけかは不明で、そのいずれかを知るのには若干時間が必要です。仕入れ価格から販売価格を単純倍率で決めている本サイトとしては、現在の流通価格の1/3程度を予定しています。下写真はニュージーランドバーク木片に取り付けたBulb. cruentum giantで、中温環境にての栽培です。

Bulb. cruentum giant
Bulb. cruentum giant

Phalaenopsis minus

 今回のPhal. minusは生息地タイからの直輸入となりました。近年ではPhal. finleyiとも呼ばれます。浜松到着がサンシャインラン展の2日前であったため植え付けが間に合わず、プラスチックポットにミズゴケの仮植えの状態のまま数株の販売を行いました。その特異な花形状のためか人気があり完売でした。本種は他のAphylllae亜属同様に根が植込み材に覆われるポット植えは適しません。長い扁平した根の裏側を取付け材側に、一方、表面(緑色した側)はむき出したまま取付ける植え替えが必要です。本種の栽培の難しいところは、こうした植え付けのため、根が外気に直接晒られた状態となり乾燥し易く、乾湿の変化が大きくなることで株がじり貧状態になり易いことと、落葉性のためかん水、温度、輝度のコントロールとタイミングを季節に応じて調整しなければならないことです。

 今回の入荷株は葉が大きく良質で、ラン展後に直ちに支持材に植え付け(下写真)ました。上記対策として、ニュージーランド産のTree-Fernと言われるシダの根100%からなる支持材を用いました。この素材はヘゴ板以上の、これまでの支持材としては最も高い保水力をもちます。50㎝長x7㎝幅(15㎝幅を裁断)のサイズに20㎝ほど薄くミズゴケを敷き、株を取り付けました。

Bulbophyllum orientale

 Bulb. orientaleは中国雲南、タイ、ベトナム生息種で同じ節のBulb. careyanumBulb. lilacinumと共に、その稲穂のような花序でよく知られたバルボフィラムです。本サイトではBSサイズ4-5バルブで2,000円で販売しています。花色は薄黄色から赤味のあるオレンジ色まで個体差があります。今回、葉が濃緑色で葉裏が赤紫色の株が多数含まれており、これを入手しました。バルブが赤褐色は本種でしばしば見られる色(写真2)ですが、赤味のある葉裏を持つ株の栽培がこれまでに無く、葉裏の色は花色に関係することがあり、果たしてどのような花が咲くのか。一般種として本種はあまり注目されないこともあり、それならばと今回は5cm角で50cm長のTree-Fernに合計35バルブ程を3面に寄せ植え(写真1)しました。一斉に開花すれば華麗な風景になるのではと期待しています。これも展示会出品用としての売り物です。

ニュージーランド産バークへの取り付け

 ニュージーランド産バークのLLおよびLLLサイズが入手でき、これにDen. christyanumDen. scabrilingueの一部を植え付けてみました。下写真がそれです。バークと言っても粒ではなく木片で、重いのが欠点ですが、コルクと異なり重量感があり野生栽培株の展示会等出品の景色として良いのではと。写真は取り付け直後のためミズゴケが目立っていますが、やがてコケが着き、くすんでくればバーク色に馴染むと思います。これらも販売用です。流木に着生ランを取りつけ栽培をしている趣味家も多いと聞きますが、流木とラン原種の組み合わせにはやや違和感があり、バークを支持材にしてみました。写真はLLサイズです。

写真1 Den. christyanum
写真2 Den. scabrilingue

炭化コルク メモ

 サンシャインラン展で本サイトが出品していた炭化コルクの植え付けについて、多くの方から質問を頂きました。株とその周りをミズゴケで覆う際の取り付けに苦労されているようで、透明のテグス(釣り糸)あるいは紐(糸)で縛るものの本サイトのようにしっかりと固定しないとのことです。

 糸やテグスは縛りつけることは出来ても局所的な塑性変形(押さえて戻らない)が困難で、巻いているとやがて緩んでしまいコルク幅が大きくなればなるほど細部をしっかりと押さえつけることが難しくなります。塑性変形ができるのは針金ですが、針金は反面、強く巻けば株の根や茎を圧迫して傷をつける可能性が高くなります。本サイトは多数の試行錯誤の結果、盆栽用アルミ線の1mm径を用いるのが最も有効との結論に至り、昨年7月よりこのアルミ線で株やミズゴケを留めています。重く大きな株の取り付けには部分的に1.5mm径のアルミ線を用いることもあります。

 アルミ線にした理由は、銅線ではアルミ線に比べて硬く塑性力がやや強すぎ、絞めつけると根や茎に食い込む危険性があることと、巻き始めから錆びるまで線の銅色が目立ち過ぎます。いわゆる株やミズゴケを板に固定するには、針金には相矛盾する性質、”柔らかな塑性力”、が必要で取付け後、指で針金を押さえればそのまま戻らないものの摘まみ上げれば隙間ができる程の柔らかさが必要であることです。この点、盆栽用アルミ線は”盆栽用”とされるだけあって植物に優しく良くできています。

 また盆栽用アルミ線は黒に近い茶褐色で、炭化コルクと同色であり目立ちにくいこと、一方、1mm径では半年ほどで曲がった個所が腐食して切れ始めますが、この切れる特性は、茎や根が縛られた圧迫からやがて解放されることであり、固く縛ったままでは根や株が成長し太くなる場合にはむしろ害になります。しかし切れるまでの期間が問題で、根の活着が早いか切れる方が早いかは一つの栽培結果を知る上でのバロメーターにもなるものの、根が張る前に切れるようであれば、ミズゴケごと落下する可能性が高まります。これまで数千株ある中でアルミ線がほぼ同時に多数の個所が錆びて切れ、株が落下したケースはありませんが、一部の巻き直しは数株あります。これは杉皮板取付でも同じです。

 盆栽用アルミ線はホームセンターや園芸店で入手できます。一方、炭化コルク利用で重要な点は、購入し使用する前には必ず強いシャワーで表面を水洗いすることです。製造から販売までの間の梱包や輸送でコルク板が互いに擦れ合って表面の隙間に炭化粉が付着しており、この粉が残っていると水がコルク内に浸透しにくくなり保水力が低下します。水洗い前と水洗い直後の重さは保水で大きく変化し、持って比較するとその重さの違いがよく分かります。