続胡蝶蘭大株

 これまで胡蝶蘭原種の大株をしばしば取り上げてきましたが、7月から今月までの3回のフィリピン訪問で得た株の葉長の大きさは格別で、ロット当たり大株が1-2株が含まれることはこれまで何度かありましたがロットのほぼすべてが大株で入荷したのは過去15年間で初めてです。下写真上段は炭化コルクに取付けた一部ですが、上一列はPhal. mariaeで下一列はPhal. hieroglyphicaです。葉長はいずれも30cmを越えています。

 写真下段は、これまでのBS/FS株とされてきた株と今回の株を比較したもので、左写真のPhal. mariaeは最大葉長が右株で43cm、大株に挟まれた杉皮板取り付けの中央が21cm、右が35cmです。また右写真のPhal. hieroglyphicaでは左の斜め吊りの3.5号ポット植えの株は22cm、右の炭化コルク付けは32cmです。下段写真で、それぞれ大株に挟まれた小苗に見えてしまうは株は市場に一般的に流通しているBSサイズであり、比較のため小さな株を選んだのではありません。

 上段写真の株はこれから2-3ヶ月の順化栽培に入ります。これら大株は取り付け直後は根の切断等で葉がしな垂れて入荷しますが、下段写真左のブロックバーク取り付けの9月初旬入荷株のように2-3ヶ月間の順化が終了すると葉全体に張りが戻り、2芽目の新芽も見られます。これらは現在記載されている情報の中でも最長レベルかそれ以上で、注目すべきはこれらがたまたま含まれていたのではなくロットほぼ全てがこのサイズであることです。大株であることは、Phal. mariaeでは輪花数が、一方Phal. hieroglyphicaでは花サイズがそれぞれ比例することを期待(Phal. mariaeは確認済)しています。

上一列はPhal. mariae  下一列はPhal. hieroglyphica
Phal. mariae
Phal. hieroglyphica

Bulbophyllum hampeliae

 2016年OrchideenJournal Vol.4-4で発表された新種のバルボフィラムでフィリピンミンダナオ島北部、東ミサミス州標高1,200mコケ林の生息種となります。Beccariana節でBulb. virescensの近縁種と思われます。種名由来のHampel氏より直接出荷された15株程を今回のフィリピン訪問で持ち帰りました。下写真がそれで、炭化コルク、ソフトFern角材(写真1 左写真の右端)およびバスケットにそれぞれ植え付けています。

Bulb. kubahense、Bulb. binnendijkii、Bulb.aeoliumなどリゾームの長い種は、その株の形状や成長様態から垂直板(ヘゴやコルク)への取付が適しているものの共通して栽培者から伺うのは、新芽は良く発生するのだが、芽が開く前に病気等に罹り易く、よく落ちてしまうということです。垂直板では新たに発生する芽の周辺は板の上部や側面あるいは支持材から浮いた、保水材(ミズゴケなど)の少ない場所が多く乾燥が進み、新芽が弱体化するのではと思いますが、そのため支持材としては保水性の最も高いソフトFern、手近なところでは木製バスケットに植え付けることで新芽が落ちることはかなり少なくなります。しかしバスケットの場合、伸長するリゾームがすぐにバスケットからはみ出してしまいます。これを納めるのはリゾームの根がバスケットに活着する前に強制的にバスケット内部に収まるようにリゾームを曲げることが必要になります。今回本種を3つの植え付け材としたのは、こうした背景から本種の性格をあらためて観察するためです。来月のサンシャインラン展に出品し40cm x 8cm炭化コルク3バルブ構成で3,000円を予定しています。

写真1 Bulb. hampeliae

胡蝶蘭原種大株I

 下写真1の上段に吊り下げられた株はPhal. lueddemanniana Mindanao、下段がPhal. mariae、一方、写真2の上段はPhal. hieroglyphica、下段がPhal. schillerianaです。いずれも野生栽培株で35cm長の炭化コルク付けとなっており、すべて葉長30cmを超える大株です。ネットに見られる素焼き鉢にミズゴケで植え付けられた同種の実生と比較するとまるで別種の如きです。今回のフィリピン訪問でこれら原種をそれぞれ20-40株持ち帰りました。写真はその中の2株づづを撮影したものです。他の株もほとんどがこのサイズです。Phal. mariaeは蕾を付けている株があり、大株は花数が圧倒的に多いことが特徴で、ざっと数えたところ60個ありました。来年1月のサンシャインラン展にこうした胡蝶蘭大株を10種程出品する予定です。一般サイズに比べこれまで通り1,000円前後高額になる程度ですので、現在のマーケットで見られるこれら原種の小さな実生株よりも安価と思います。

写真1 Phal. lueddemaniiana(上)、Phal. mariae(下)
写真2 Phal. hieroglyphica(上)、phal. shilleriana(下)

Phalaenopsis hieroglyphica f. flava

 フィリピンから今回持ち帰ったPhal. heiroglyphica f. flavaの植え付けが終わりました。Phal. hieroglyphicaのalbaフォームは5年以上前から実生がマーケットに登場し、本サイトでもalbaフォームをフィリピン固有種にも拘わらずマレーシアにて5年ほど前に入手したことがあります。本種の花フォームは多様で本サイトを含め、Phal.netなどのサイトで多数見ることができます。flavaやalbaとされる花フォームには白あるいは薄黄色のベース色にPhal. hieroglyphicaの名の由来であるヒエログリフ文様の黄色の斑点が特徴です。しかし多くはこの斑点が色褪せていたり、単なる棒状斑点であったりと何代にも及ぶ交配の結果と思われる変化が感じられ、美しいフォームは中々見ることができません。

 下写真1が今回入手の野生栽培株で葉長は30cmを超えます。写真2はその花です。白色ベースに黄色のコントラストのあるフォームはこれまでのネット画像には見られない印象的な色彩と思います。写真1の株にはさく果があります。これは開花と同時に自家交配を依頼し3ヶ月程経過したものです。2-3か月後には採り撒きを予定しています。一方、写真3は現在マーケットに見られるPhal. hieroglyphica albaとされる実生の参考画像です。これに対しflava種のマーケット情報はほとんどありません(ヤフオクにPhal. hieroglyphica flavaの検索で1件ヒットしますが画像はなぜかPhal. amoboinensis flavaです)。

写真1 Phal. hieroglyphica f. flava
写真2 Phal. hieroglyphica f. flava
写真3 Phal. hieroglyphica f. alba

フィリピン訪問

 8日に浜松を立ち11日までフィリピンを訪問し250株程を持ち帰りました。その中には発見者本人からの新種Bulb. hampeliaeや、前回紹介したDen. deloeonii、またおそらく世界で初めての登場と思われ今後マザープラントとなるVanda roeblingiana albaPhal. hieroglphyca flavaPhal. lueddemannina blueなどが含まれます。バルボフィラムはミンダナオ島からが多く、そのほとんどが種名不詳種です。またDen. papilioのクラスターも入手しました。今回の訪問は原種の本来の姿をサンシャインや東京ドームラン展で展示し、販売するため胡蝶蘭が中心でこれらは13日から順次本サイトにて紹介していきます。

Dendrobium deleonii

 本種は今年のOrchideen Journal Vol16_2 (2018年4月号)にフィリピンミンダナオ島Bukidnon標高1,300mの生息種として発表されたデンドロビウムです。新種名のデンドロビウムとしては珍しく大型の花で本サイトではその発表から3月後に入手し、今月にはその一部が開花しました。下写真が浜松にて6日に撮影した花です。また今後実生化を図るべく現地でシブリングクロスしてもらいタネを付けた株も入荷しました。

 Den. deleoniiはネット画像で見られるDen. sanderae var majorと瓜二つで、果たしてどこが違うのかと一般の趣味家は感じるかも知れません。論文によると相違点が何点か取り上げられており、一つはリップの側弁(下写真のリップ奥の複数の赤いラインのある左右2枚の弁)が小さいこと、2つ目はリップ中央弁がやや短く幅広であること、3つ目は中央弁がDen. sanderae v. majorは側弁と中央弁の境目辺りから折れ曲がるように下垂しているのに対して、本種は下写真上段右に見られるように真っ直ぐ伸びているか、僅かにカーブしていること、4つ目は同一花サイズで比較するとリップの基部がやや狭いこと、最後に葉が本種はDen. sanderae v. majorと比べ小さく、余りカーブしていないことのそれぞれです。さらに論文ではBukidnonのローカルマーケット(おそらく露店販売)で長い間売られていたものが、上記のようにvar. majorとの相違点が分かり(Establish)、最初の撮影者の名前からこの種名に至ったとあります。

 この花形状からはおそらく、ほとんどの人がDen. sanderae v. majorとの違いを理解することは出来ないのではと思われます。ルソン島からカラヤン諸島を中心に広く分布するDen. sanderaeは地域差や視覚上の個体差を持つ種に対しては、v. luzonicum、v. major、v. parviflorumv. surigaenseなどこれまでDen. sanderaeの変種として位置づけてきました。本種もDen. sanderae v. majorv. surigaenseが存在する中で、果してDen. sanderaeとは別種とすべきかは疑問です。地域固有の形状が認められるとしても、上記程度の相違であれば、例えばDen. sanderae v. deleoniiとする名称がより適切な気がします。

 今後のマーケットにおいて危惧することは、その類似性からしばらくの間、新発表種であるが故の高額販売が見込めることからDen. sanderae var majorDen. deleoniiと偽って販売されないかです。これほど類似する種の購入にはまず花を確認すること、花付でなければその株、あるいは同一ロットの花写真、特に下写真の上段右のような側面画像を、さらに重要なことは株の出所(生息地域)を確認することです。言い換えれば、販売する側も出所が不明な本種名の株を取り扱うべきではないと思います。また現実問題として現地2次・3次業者が両種を同定する知見があるとも思えません。Den. deleoniiはミンダナオ島Bukidnon、一方、Den. sanderae v, majorはルソン島コルディリェラ・セントラル地域、さらにDen. sanderae v, surigaenseDen. deleoniiと同じミンダナオ島で、スリガオ州です。これらはDen. sanderae v. majorでのネット画像検索からも分かるように、葉や正面からの花形状からはDen. deleoniiに類似するフォームが多数あり、相当な栽培経験者であっても判別は容易ではありません。その同定には出所に加え、前記論文の特徴点の5つ全てのand条件(全てが合致すること)が必要です。

 Den. deleoniiの花は大きく純白のセパル・ペタルにblood redのラインの入るリップをもつ美しく整った種です。開花株があれば来月10日からの全蘭サンシャインシティラン展の本サイトのブースにて展示します。価格は株サイズにより5,000円 – 7,000円を予定しています。

Den. deleonii

Dendrobium rindjaniense

 8月に入荷したインドネシアLombok島生息のDen. rindjanienseの炭化コルクやブロックバークでの順化が終了し、開花が始まりました。下写真がその一部です。期待した通り大株は花茎当たりの輪花数が多く、さらに1バルブに3-4の花茎を発生している株も見られます。1月のサンシャインシティラン展には大株での開花を展示することが出来ると思います。

Den. rindjaniense

Bulbophyllum sp North Luzon

 昨年、フィリピンにBulb. woelfliaeを注文した株は開花でBulb. catenulatumと分かりミスラベルでした。その後数回開花したようですが、互いに似た者同士のBulb. ocellatumBulb. pardalotumと同じ場所で混在して栽培しており、これまで取り立てて花の確認をしていませんでした。先日偶然に開花を見て、これまでと異なる花フォームと気が付き、上記の経緯をラン園に説明にしたところ、Bulb. woelfliaeを注文したときin situ(本来の生息場所)の画像がサプライヤーから送られてきたことがあると、その画像をもらいました。比較して同じ種であることが分かりました。それが下写真の上段左です。その他の花画像は浜松にて撮影したものです。昨年3月の歳月記にBulb. williamsiiの変種ではないかと取り上げた種に花形状が類似しており、おそらく同種と思われますが、今回の開花株は一回り小さなサイズでin situ画像に似てラテラルセパルの赤味が強く出ています。

 花形状からLeptopus節をネットで画像検索したのですが該当する花フォームが見つかりません。最近のジャーナルに発表されているかも知れませんが取り敢えず新種の可能性もあり、待遇変更で植え替えを行いました。リップの形状はBulb. ocellatumに似ているのですがペタルやラテラルセパルは異なります。更に調査が必要です。

Phalaenopsis pulchraとfloresensis

 9月にそれぞれ20株程を入荷したPhal. pulchraPhal. florensensisの順化が終了し、それぞれが頂芽や根を盛んに伸ばしています。下左写真の上段がPhal. pulchra、下段はPhal. florensensisの20株の一部で、全て野生栽培株です。写真の炭化コルクは30cm長であることから株の大きさが凡そ分かるかと思います。長い葉で30cm近くあります。左のヘゴ板は1m長です。画像左の1m長の大きなヘゴ板に付いた株は高芽から高芽へと繁殖したPhal. pulchraのクラスターです。Phal. pulchraはフィリピンLuzon島とLeyte島に生息し、これまでの入手状況からはルソン島生息種の花色はやや明るい青紫に白のまだら模様が多い一方で、レイテ島はやや濃色の青紫のソリッドに近いフォームがしばしば見られ写真のクラスター株はレイテ島からです。

 40年ほど前まで本種はPhal. lueddemanniana var. pulchraと命名されPhal. lueddemannianaの変種とされていた時期があったそうです。同様にPhal. hieroglyphicaPhal. lueddemanniana var. hieroglyphicaと呼ばれた時期がありました。現地では今日でもPhal. lueddemanninahieroglyphicaは同種と主張する人がいます。確かにPhal. hieroglyphicaにはPhal. lueddemannianaとの区別が難しい花フォームがあったり、栽培を通しての性格はほとんどが同じです。しかしPhal. pulchraPhal. lueddemannianaとは花形状に明確な違いがあり判別は容易です。

 ランの多くは複茎性で茎が成長し終わるとその基部から新しい芽や、リゾームを伸ばしその先に新芽を付け増殖していきますが、これが根や茎基に障害がでると既存の茎の途中から高芽が発生するようになります。Den. miyasakiのように根が正常であっても頻繁に高芽を出す例外種もありますが、デンドロビウムなどでの高芽の発生は根腐れを暗示していると考えた方が無難です。それに対して胡蝶蘭は単茎性で、頂芽優先のため増殖は花茎からの高芽によって行われます。しかし頂芽に障害が出たり、伸長が止まった場合には茎基から脇芽が現れます。単茎性種では脇芽が株の異常を知らせていることになります。また胡蝶蘭も根が傷んだ場合、花茎に花の代わりに高芽が発生するようになります。このような性格からいずれも高芽の頻繁な発生には注意が必要です。ところが胡蝶蘭の中にも頂芽が伸長し健康であっても、次々と花茎を伸ばし、これに花を付けるよりも高芽を頻繁に発生させる例外種がいます。この代表的な種がPhal. pulchraです。写真の左のPhal. pulchraクラスター株は3年前は5個ほどの高芽を付けた1株であったものが僅か3年程で写真に見られる繁殖です。まさに高芽が高芽を生む光景です。こうした頻繁な高芽による成長はとりわけPhal. lueddemanniana complexの特徴ですがその中でもPhal. pulchraは特に活発です。

 一方、Phal. floresensisはインドネシアフローレス島生息種です。この種で興味があることは、DNA分析によると本種はボルネオ島生息のPhal. bellinaの近縁種とされ遺伝距離が近いとされます。よく見れば花色の違いを除けばPhal. floresensisの丸みのある花のセパル・ペタル形状からはPhal. bellinaに似ているように感じます。いずれの原種も、頂芽を病気で失わないようにすることと、Phal. pulchraのように長く下垂する花茎を考えるとミズゴケの鉢植えでベンチに置いての栽培は困難であり、大株にするには下写真のような支持材への植え付けが必要となります。

Phal. pulchra
Phal. pulchra
Phal. floresensis