フィリピン訪問

 1年2ヶ月ぶりにフィリピンを訪問し3日に戻りました。繰り返しになりますが、日本の業者が輸出入禁止の絶滅危惧種であるヘビとメガネザル等をアクアプラントとされる箱の中に隠して違法輸入をしていたことが分かり、その業者の調査をさらに進めた結果、数年に渡り常習的にこの違法を繰り返していたことも判明、フィリピン植物検疫所にとっては、それこそ”あなた方は真面にこれまで仕事をしてきたのか”と大いに面子を潰された恰好になってしまいました。そうした背景から輸出検疫が厳しくなり昨年4月以降、主なランの輸出業者に対しても立会検査も辞さずと、植物検査の日取りは検疫所の都合で決まることになり、CITES認可を予め得ておくことは出来ても、訪問してランを選びそれを帰国前日に検疫所に持参し、その日のうちに許可を得られるかどうかが分からなくなりました。結局高い渡航費を使って出かけても現地からランを持ち帰ることができるどうかの保証がない以上、訪問する意味がなくなり、これまでの10年間年数回行っていたフィリピンへの訪問を中止していました。昨年11月には検査が終了次第園主直々に成田まで持ってきてもらうこともありました。検疫が終わってから取りに行けばよいのではと思われるかも知れませんが、フィリピンの高温下で密封から持ち帰りまでの時間がEMSと変わらないのでは品質の保証ができません。それが今年4月から、箱は完全密封で検査官の手書き署名の封印で再び申請当日の認可が得られることになり今回の訪問となった訳です。

  一方、フィリピンミンダナオ島の特に西部では、衆知のように長い間イスラム武装勢力との闘争が続いています。この地域への”よそ者”の立入りは現在もなお困難と言われますが中部のBukidnon、北西部のLanaoなどの一部では近年解放エリアが拡がり、ここ3年程でインドネシア・スマトラ島北部と同じように多くの新種の発見が続いています。本サイトではこれまでの人脈を通して、これらランの入手が可能かを打診をしていたのですが、その一部は入手可能とのことで、今年の4月と6月にCITE認可を得、また前記検疫を通して持ち帰ることができました。明日から順次、新種を含め入荷したランを紹介する予定です。

 今回はこうした種を含め800株程を持ち帰りました。また今週末にはタイからEMSで300株程が入荷予定です。ここ数年胡蝶蘭原種の入荷が一般種を含め滞っており、これらも今後2-3ヶ月以内で集めようとマレーシアには今月半ばに訪問を予定しています。 当初計画から1か月遅れとなりましたが何とか軌道に乗り始めたところです。

Phalaenopsis sumatrana (zebrina) Palawan

 Palawan Bataraza地域生息のPhal. sumatranaが開花しました。下写真がその花です。ボルネオ島SabahおよびPalawan諸島のPhal. sumatranaは別名Phal. zebrinaとも呼ばれPhal. sumatranaとは地域差の関係、あるいは別種ともされます。フィリピン現地ではPhal. sumatranaと呼ばれています。Phal. sumatranaPhal. zebrinaとの違いはセパル・ペタルのベース色がPhal. sumatranaが黄色を帯びているのに対して、Phal. zebrinaは白色とされます。しかしセパル・ペタルのベース色のみの違いをvar.(変種)やfma.(フォーム)とするのであれば兎も角、種別要因とするには無理があり 本サイトではPhal. sumatranaおよびPhal. zebrinaのカルス形状を比較しました。この2種についてはカルスの歯状突起の形状が異なることを本サイトでは指摘しています。

 一方でPhal. sumatranaPhal. corningianaとの違いが議論された時期があったようです。その判断の一つにセパル・ペタルの棒状斑点の配列が、Phal. corningianaでは中心(縦方向)に向いており、Phal. sumatranaは横方向とされる点です。E.A. Christenson氏はこの説は若干曖昧で、むしろ香りの違い(Phal. corninginaはCandyのような香りで、Phal. sumatranaはツンとくる嫌な臭い)を指摘しています。さてPhal. sumatranaPhal. corninginaの棒状斑点の議論を敢えてここに取り上げるのは、Phal. corningianaは棒状斑点は縦横いずれの方向も存在する反面、これまで本サイトが入手したPhal. sumatranaやPhal. zebrinaは例外的に1-2本の縦方向斑点が含まれることがあっても総体として前説のように横方向であり、Phal. sumatranaPhal. zebrinaの方向性については納得していたのですが、今回Palawanから入荷したPhal. zebrinaは下写真が示すように、縦方向の棒状斑点が多く見られ、E. A. Chiristenson氏の指摘は的を得ていることになり、棒状斑点の方向は種別判定の決定的要因とは成りがたいことが分かりました。再びPalawan生息種のもつ不思議さがここにも現れたことになります。

Phal. sumatra (zebrina) Palawan
Phal. sumatra (zebrina) Palawan
Phal. sumatra (zebrina) Palawan

Bulbophyllum fascinator semi-alba

 5月のサンシャインラン展に間に合わせるためタイから直輸入したBulb. fascinator semi-albaが開花しました。ラン展では2,500円で販売しました。本種は4年程前から実生がマーケットに見られるようになり現在は廉価品となっています。このSemi-albaの長いラテラルセパルは黄緑色を中心として微妙な色変化が個体差として見られます。今回取り上げたのは開花した花が、淡い上品な緑色がこれまで以上に際立った個性のあるフォームであったためです。百聞は一見に如かずで、下写真に収めました。炭化コルク付けです。同一ロットで20株程現在ストックしていますがさて次の花も同じような色合いであると良いのですが。

Bulb. fascinator semi-alba
Bulb. fascinator semi-alba
Bulb. fascinator semi-alba

Phalaenopsis pulchra

 胡蝶蘭原種のほとんどは下垂する葉のためヘゴ板やコルク付けによる栽培が必要ですがPhal. pulchraはポット植えが可能な数少ない種の一つです。花色はセパル・ペタル共に全面赤味のある紫色で稀に青味の強い色も見られます。現在浜松にて開花中のカラーフォームは写真1のこれまで見た限りでは最も濃い赤紫色であることから撮影してみました。レイテ島生息株です。一方、写真2は1mのヘゴ板に取付けたPhal. pulchraクラスターで元は一株です。全体で20株を超えますが高芽が高芽を生む繰り返しによる増殖です。最近は頻繁にクラスター造りを進めており、原種株の自然での風景が表現できればとの目的からです。これらクラスター株は展示用ですが、今後は受注生産での販売も行う予定です。このため現在、機会があるごとにサプラヤーには株の細断はしないで出荷するよう要請しています。

写真1 Phal. pulchra
写真2 Phal. pulchra

Bulbophyllum violaceolabellum

 本種は中国雲南省からラオスにかけて石灰岩質台地の疎林に生息する岩生および着生種で高温タイプです。これまでの国内マーケットでの価格はBulbophyllum属の中では高価であることから栽培難易度の高い種かと思いつつも先月30株程を入手し炭化コルクに取り付け、順化栽培に入りました。植え付けから1か月ほど経過しましたが、80%以上の株で新芽が現れ勢いよく成長しています。何が気に入ったのか分かりませんが、どう見ても弱弱しい種とは思えません。サンシャインらん展に本種も5株ほどを3,000円で出品しましたが3日程で完売しました。それぞれ1株が5バルブ程のサイズでした。この価格は下記の植付け手間と炭化コルク等の材料費を考えれば株単体の実質相当価格は2,500円以下となります。下写真1は先月中旬の植え付け直後、写真2以降は24日撮影の新芽の成長状態を示したものです。

 本種はBulb. blepharistesと同様に、仕入れ時にはそれぞれのバルブや葉がその他の種にはあまり見られない程に、いずれもあちこちを向いており植え付けには相当の技術が要求されます。下写真でバルブにワイヤーが巻かれていますが、これは1mm径の盆栽用アルミ線で、まさに盆栽で行われる”針金かけ”と同じ目的です。ランに”針金かけ”を行うのはBulb. blepharistesと共に本サイトとして今回初めてで、このような話も聞いたことがありません。この2種についてはポットであれ板付けであれ、一つのバルブの根を固定すると、他のバルブの根は反対あるいは横を向き、取り付け後の風景どころではありません。葉も輝度との関係から極力全ての葉の表面が一方向を向くようにしたいのですが、根と同様に上下左右を向いており定まりません。僅か5バルブ程が1本のリゾームで繋がった構成にも拘らず、なぜこれほどチグハグなのか、おそらく5㎝径ほどの枝に絡まっていたのでしょうがほとんどの株がそうとも思えず、どのような環境で成長してきたのか逆に興味が湧きます。そうした状態の中、まず根を板に付けることが最優先でそれを行った後、あちこちを向いたバルブや葉を針金をかけて引っ張り、バルブは板に極力垂直になるように全体を整形していきます。強すぎるとリゾームが折れてしまうため、針金をかける位置と張力の加減が難しく、一方、葉も互いに触れたり重ね合わないように起こします。そうして出来上がったのが下写真1の風景です。結局、これらの取付には一般種の4-5倍の時間がかかりました。 このようにバルブがあちらこちらに引っ張られながらも新芽が待っていたとばかりに次々に出て元気なのも不思議です。1mm径のアルミ線は半年ほどで切れ始めるためそれまでに根がある程度活着すれば、それなりの方向を向いて落着くと思います。

写真1 Bulbophyllum violaceolabellum
写真2 Bulbophyllum violaceolabellum
写真3 Bulbophyllum violaceolabellum
写真4 Bulbophyllum violaceolabellum
写真5 Bulbophyllum violaceolabellum
写真6 Bulbophyllum violaceolabellum
写真7 Bulbophyllum violaceolabellum
写真8 Bulbophyllum violaceolabellum
写真9 Bulbophyllum violaceolabellum
写真10 Bulbophyllum violaceolabellum

やや変わり種のPhalaenopsis mariaeとPhalaenopsis pantherina

 下写真1は赤色斑点が太いフォームのPhal. mariaeです。一方写真2はPhal. pantherinaで通常セパル・ペタルのベース色は黄色ですが、緑色が強く出たフォームです。いずれも3年間ほど、この固有フォームが変わることなく再現していることから遺伝性が考えられ自家交配を計画中です。

写真1 Phal. mariae
写真2 Phal. pantherina

Dendrobium tobaense

 6月中旬を過ぎても多数のDen. tobaenseで開花が続いています。下写真はラテラルセパル左右のスパンで12.1㎝サイズ(写真1, 3)と、ペタル間スパンで11.0㎝サイズ(写真2, 4)の花です。セパル・ペタルは湾曲しているので測り易い方で行いました。市場ではこのサイズをgiganteumと呼んでいるようですが、本サイトでは茎が20を超えるとこの花サイズが一般で、すべて野生栽培株です。5月のサンシャインらん展には同じロットの5株程を4,000円で出品し完売となりました。Phal. amabilisと同じくらいの大きな花ですが本種の花フォームは個性があって迫力があります。これらは10㎝幅x30㎝長の炭化コルクに付け、中温室にての栽培です。根元のミズゴケが乾燥気味になればかん水を行います。乾燥してからではありません。これは四季を通して同じで、一般に言われるような冬季にはかん水をやや控えめにするなどと面倒な管理は、素焼き鉢にミズゴケの組合わせ栽培をしていた頃に行ったことはありますが、炭化コルクに替えてからは一切していません。1年を通して同じタイミングの繰り返しです。

写真1 Den. tobaense
写真2 Den. tobaense
写真3 Den. tobaense
写真4 Den. tobaense

Aerides inflexa

 ボルネオ島、スマトラ島およびフィリピンに生息する本種の花(画像はW. Suarez氏から頂いたもの)は一般に白色ベースのセパル・ペタルに先端部がマゼンダ色で同色の小さな斑点が全体に散りばめられています。この色はPurple-pinkやPink-blue色など個体差があります。

 1昨年フィリピンの趣味家から入手した一抱えもあるクラスター状の野生栽培株は、一般カラーフォームとは異なりセパル・ペタル全体がAerides leeanaのようなダークピンクで、所有者が付けたと思われるタグには種名の横に”wildroot Princess”の愛称が書かれていました。おそらくフィリピンのラン展での入賞株と思われます。このクラスター株が開花中であったため先月のサンシャインラン展に展示用として販売ブースに参考出品しました。

 かなり年月が経ったのかクラスターを構成するそれぞれの茎の下部の多くが古くなって枯れ始めており、植え替えを行う時期に来たとの判断で、今月に入り思い切って茎毎に株分けをし、根も選定を行いました。結果12株に分かれました。下写真3がそれらで、これらの株の花は写真1, 2となります。フィリピン生息の本種は入荷が非常に難しいこともあり、これらの一部をこの機会に販売しようと順化に入りました。今年秋頃から販売を開始する予定です。

写真1 Aerides inflexa
写真2 Aerides inflexa
写真3 Aerides inflexa

 ここで本種に関して、いくつか気が付いたことがあります。まずAeridesはいろいろなカラーバリエーションがあることから、同じAerides属のAerides odorata、Aerides leeana、Aerides quinquevulneraなどとの違いを花色で判断することは難しく、ではどこで種別を行うのかが問題となります。デンドロビウムCalearifera節に見られるようなリップの基部から後方あるいは下方に伸びている距(Spur)が、Aeridesでは正反対の前方に曲がり伸びているのですが、Cootes氏によればAerides inflexaは、このSpurが直線的で真っ直ぐ前方に向かっている点を指摘しています。Aerides odorataquinquevulneraは確かにSpurは湾曲気味で先端はやや上方に向いています。またAerides leeanaは前向きながら下方に多くが向いています。この説を是とすると、 orchidspecies.comのAerides inflexaの画像は、クローズアップの画像は良いとしても、Spurは湾曲気味でAerides quinquevulneraのようにも見え、一方、かく言うCootes氏の著書Philippine Native Orchid SpeciesにあるAerides quinquevulnera var. purpurataの画像はSpurが真っ直ぐ伸びてAerides inflexaの如くでAerides quinquevulnera らしくなく、さらに悩ましいのはAerides inflexaのフィリピン生息地はルソン島に対し、Aerides quinquevulneraはルソン島、Mindoro島、およびNegros島とされる一方で趣味家から得たAerides inflexaはそのタグにMindoro島と記載されており、こうなると整理がつきません。果たしてこうしたレベルの情報で種の同定をして良いのかどうか首を傾げたくなります。いわゆる可視形状による分類手法の限界のような気がします。

 しかし、所有する種は写真1および写真2に示すようにSpur(リップ基部から花の前方に伸びている薄黄色の先の尖った突起)はAerides leeanaとは大きく異なり、またAerides odorataquinquevulneraとも異なって直線的であり、まず間違いなくAerides inflexaと思われます。

Phalaenopsis minus

 Phal. minusが開花を始めました。2-3年程入荷が無く、昨年12月にマレーシア経由で3株と、先月初めて現地タイから直接20株程を入荷しました。本種はタイ北部の熱帯モンスーン(季節林)生息種のため大きな気温の変化と共に雨期と乾期があり、こうした複雑な自然環境に生息するAphyllae亜属は栽培が易しいようで結構難しい種です。いわゆる1-2年は何とか持ちこたえるものの、そこから先はやがて葉が無くなり根も枯れてしまうというものです。このような栽培経験をした趣味家は多いと思います。夏季の昼間は30℃以上でも良いのですが、夜間温度が15℃近くまで下がる月が1年に6ヶ月以上(栽培環境にて)となる条件が必要で、これは富山や新潟あるいは福島県以北の地域でなければ実現にはかなりのコストがかかります。

 会津では特別な管理をしていなくても、温室栽培で元気に育ち毎年多輪花であったのが、浜松に移ってからは今一つ元気がありませんでした。調べた結論としては上記のなような環境が本種には必要なことが分かりました。本サイトで言えば中温室内の比較的暖かい場所と言ったところでしょうか。夏季に山上げができる人、あるいは上記地域で栽培をしている方は、春から秋にかけてこまめな水分補給さえしていれば丈夫な種と言えます。

Phal. minus
Phal. minus
Phal. minus

Dendrobium flos-wanua

 今月の歳月記にツートーンカラーのDen. dianaeを取り上げました。入荷時のこれら株は小さな木片に粗末に取り付けられた5㎝程を最小に2-3㎝のバラツキのある背の低い20株程であったことは前回説明しました。その同じ入荷ロットの中に一際背丈の高い株が4株程混ざっており、その株が開花しました。Den. dianaeとは花フォームが異なり、調べたところ同じカリマンタン生息でDen. dianaeとは1年遅れの2011年登録の新種、Den. flos-wanuaであることが分かりました。疑似バルブや葉形状からはDen. dianaeと区別することはかなり困難で敢えて違いを言えば、葉がややDen. flos-wanuaがスリムであると言ったところです。国内では実生がマーケットにあるようですが、入荷株の様態を考えると開花した株は野生栽培株と思われます。

Den. flos-wanua
Den. flos-wanua