国内では豪雨の次は酷暑と例年にない異常気象が続いています。本サイトの温室がある浜名湖寄りの浜松西区は名古屋や岐阜と比べて3 – 4℃程気温は低いものの寒冷紗、換気扇および天窓のみの高温対策では、午前10時で38℃、午後2時ともなれば40℃を越えます。このため10時頃には全ての温室に、また一部には午後にも散水が必要で極力35℃を超えないように努めています。 しかしこの異常気象下では夜間であっても温室内は30℃を下回ることがありません。一方、クール温室は通常夜間温度を16℃、日中で25℃としているもののこの猛暑でそれぞれ2度程上昇しています。
温室内の高温対策として自動散水やエアコンでの対応があります。しかし扱う原種がサイズも形状も多様で、特に吊り下げ型の多いレイアウトの中での散水は被水量にムラができ、また送風のための扇風機等の電気機器が株の配置に応じて随所に設置されていることから、こうした機器類には水がかからないようにしなければならないなど環境が複雑です。一方でエアコンは温室空間が小さければ問題がないのですが、15m x 6mほどの温室ともなると70%寒冷紗を用いてもかなりのハイパワーのエアコンでなければ太陽光による熱射には敵いません。最近は水を超微粒子にし送風する濡れないミスト冷却があるそうで温室に適用可能か調べているところです。いずれにしても現状では午前10時から午後4時ごろまではクール温室以外、高温と高湿度のため30分と居られない状況です。
環境変化の異なる多様な品種を栽培しようとすれば高・中・低温対応の環境を用意しなくてはなりません。一つの温室の中でも春秋のような外気温であれば暖房とエアコンまた間仕切りの工夫でそれなりの環境が造れます。しかし今回の猛暑のような中にあっては、それぞれのランにとっての適温を維持するのは至難の業です。この結果として高・中・低温タイプのランを栽培している場合、わずかでも対応ができないと低温タイプは溶け始め、中温タイプは葉が黄化し、高温タイプですら生気を失くします。驚くのは、こうした猛暑を喜んでいる種が居ない訳でもありません。Spatulata節デンドロビウム、胡蝶蘭ではPhal. giganteaやsumatrana、バルボフィラムでは高輝度は嫌いますがBulb. kubahenseやviolaceolabellumなどは40℃近い気温の中、新芽を発生、伸長しています。
さて本題ですが猛暑にランを購入することはそれなりの準備や覚悟が必要です。どのような栽培環境であっても高湿度の維持は通年必要で、冷房によって温度を下げれば湿度も低下します。であれば自動散水となりますが前記した問題があります。一方、同じ温室内で1年以上栽培を経た株は温度や湿度に対して短期間であればそれなりの許容力を持つものの、新たに入荷した株は、その環境の変化に慣れるまでの期間はその種にとっての順化のための環境が必要です。猛暑を越えて記録的酷暑と言われるこの時期に、こうした環境を温室内に造り上げるのは容易ではありません。
今年はいつ温室内の日中温度が35℃を下回り、熱帯夜が無くなるのか予測できませんが、この時期に購入するには原則、植え替え直後の株ではなく、同じ鉢や支持材で1年以上栽培された株、すなわち根がしっかりと活着し安定した株を買うことが安全な買い物となります。ラン園やオークションを問わず購入される方はこの点を確認することを勧めます。
猛暑時に株分けや傷んだ根を整理し、植え替えを行うことは避けるべきことは殆んどの趣味家は周知と思います。まして長期の酷暑の中で行うのは「狂気の沙汰」と言われかねません。そうした中で本サイトでは現在新入荷株の植え込みと順化栽培に追われています。海外から入荷する株は繰り返し説明していますが、見た目が良さそうでも株は相当傷んでいます。ひどいものでは生きた根がほとんどありません。しかし業者にとっては、それが希少性の高い種であったり新種とされる場合は国内への入荷時期を選ぶことができません。歩留まりの問題があってもこうしたリスクを採らざるを得ないのです。これを可能にするのは10年以上に及ぶダメージのある株を含め順化経験の蓄積と、高・中・低温環境があっての技です。
難しいのは、spや新種と言われる株の管理です。その多くは生息環境(雲霧林とかオープンフォレストなど)や標高は分っていても、ハッキリしない種も多数あります。これは植え込んだ後の株の状態を朝夕にきめ細かく、その葉の変化を中心に観察することが求められます。張りが出ているとか、色合いが良くなっているとか、現状が維持されているとかを見ます。特に入荷時に小さな新芽のある株があれば一つの有効なバロメーターとなり、この新芽の変化を特に注視します。これがヘタってくれば環境が合わない、現状維持ならばそのまま栽培を続ける等です。より勢いが出てくれば環境が合うことだけでなく順化期間も短いことが読み取れます。悪いとなれば高・中・低温室のいずれかに移動することが必要で、この判断は即決即断が必須です。今回のように1,000株近い数があるとこうした株の変化を観察するだけでも結構な作業です。新入荷株だけでなく全ての株に対して観察し、毎朝ダコニールとアグレプト・ストレプトマイシン液剤を混ぜた農薬とそれを傷んだ部位に塗る筆を片手に見回ります。
販売する側はこうした作業を日々繰り返している訳です。果たして植え付け間もない株を購入すべきかどうかは、購入者側の栽培経験に委ねられます。言い換えれば上記の環境や作業を購入者にも同じように求められます。順化栽培はどの時期であっても必要ですが、猛暑下にあっては経験を積んださらなる技術が必要となります。
本サイトでは例年、順化中の株の購入は避けるべきとアドバイスをしています。しかし趣味家の中には本サイト以上に豊富な経験と栽培技術を持っている方もいます。また多くの趣味家にとって、それまで何もしないで待つことも無理があります。特に新種や希少種であればなおさらです。すなわち前記したように買うか待つかは趣味家の判断に委ねられます。そこで本サイトでは温室に来た方には株の予約を可能とし、選んだ株には出荷可能な時期まで予約タグを入れてもらい、適期が来た段階で引き渡しを行うことを続けています。このための予約費用も前払いもありません。こうしたシステムが他のラン園でも一般的に行われているのかどうかは分かりません。いすれにしても例年にない今回のような猛暑が続く中での海外からの新入荷種を求める際には、このような予約システムの利用が購入者側にとって有効と思われます。
例年通常は、夏は暇な時期になるのですが、今年は年初の予定から1-2か月遅れの入荷が続いています。とりわけ量産栽培で出荷計画も容易な実生種とは異なる野生栽培株という原種であることと、相手あっての取引であり、なかなかこちらが希望するスケジュール通りには進んでくれません。さらに今年は入荷時期と記録的な猛暑時期が重なり例年になく多忙を極めています。
この猛暑の中、間もなくマレーシアへの訪問です。 今月初めのフィリピン訪問では現地で汗をかいた記憶がなく、成田に降りたときは日本とフィリピンが反転したかのような気温で驚きました。この時期のマレーシアのSerembanでは日中32℃で夜間は24℃とのことです。ラン園やホテルのある場所を考えると3-4℃はこれより低く一方、訪問時期の成田での気温は37-39℃の予報ですからマレーシアには避暑に行くような気分です。ランに関わっていない人たちから見れば、この時期のランフリークの人たちはまさに「狂気の沙汰」を演じているのかも知れません。