Arachnis breviscapa

 3年ほど前にボルネオ島Sabah生息のArachnis brevicapaを入手しました。その時点で株は茎から切断され根の無い40cm程の株で果たして再生可能か疑問を持ちつつもバルボフィラムを栽培している温室の片隅の薄暗い場所に、プラスチック深鉢にクリプトモス入れ、ここに茎を差し込んで放置していました。葉が落ちることもなくしばらく現状維持が続き、凡そ1年後から徐々に伸び始め3年近く経過した段階で1mを超える株になりました。今回改めて植え直し本来必要とされる輝度の高い場所での栽培を始めることとしました。

 本種はボルネオ島、スラウェシ島、フィリピンに生息し、古くから知られた種で極めて多数の名前(シノニム)を持ち、Arachnis celebica, Arachnis longicaulis、Arachnis lyonii、 Dimorphorchis breviscapa、Stauropsis breviscapa、Vandopsis celebicaなどと呼ばれています。高温タイプで高輝度を好む種で、その点では3年間薄暗い場所で、病気や虫食いもなく良く成長したものだと思います。下写真は60cm x 9cmの炭化コルクに薄くミズゴケを敷き、過かん水を避けるため、その上に新たに発生した根と茎の下部を置き盆栽用アルミ線で留めたものです。長い間ベンチの片隅に転がっていたため方向がまちまちですが強靭な立ち性のため支持棒は不要です。本種の花画像は写真下の名前をクリックすると見られます。

Epicrianthes sp

 Mindanao島Bukidnon生息のEpicrianthesについて先月の歳月記に2種類入荷したことを取り上げました。一つはEpicrianthes jimcootesiiと他はEpicrianthes spでEpicrianthes charishampeliaeあるいはaquinoiのいずれかとの現地情報で、こちらは開花まで種名不詳となります。Epicrianthes jimcootesiicharishampeliaeは昨年、Epicrianthes aquioは2016年のorchideenJournalにそれぞれ発表された、いずれも標高1,300m近傍のコケ林に生息する中温タイプで直近の新種となります。今回取り付けがほぼ完了したため再度画像を掲載しました。それぞれの花画像は写真下の種名をクリックすると見られます。

Phalaenopsis bastianii

 Phal. bastianiiが纏まって入荷したのは5年ぶりです。セパル・ペタルは黄白色をベースに濃赤色の太い棒状斑点がやや同心円状に並び、ステンドグラスのような半透明感と艶をもつのが特徴です。特に大株では花茎当たり5-6輪が同時開花し良く目立ち、胡蝶蘭原種の中では最も美しい種の一つです。しばしばネットではPhal. mariaeとして本種の画像が間違えて紹介されることがあります。本種を含めこうした原種の大株は入手難ではあるものの、大株になると原種ならではの存在感を一層発揮します。写真2は今回35cm x 10cmの炭化コルクに植え付けした20株程のPhal. bastianiiの一部です。

写真1 Phal. bastianii
写真2 Phal. bastianii

Dendrobium setigerum

 フィリピンルソン島やミンドロ島などに生息するDen. macrophyllumに酷似したデンドロビウムで2000年登録の新種です。ドーサルおよびラテラルセパルの背面にある細毛が特徴です。Den. macrophyllumはJavaからソロモン諸島まで生息域が広く、標高も海抜0mから1,700mに及び、また香りがあるのに対し本種はフィリピン固有種で海抜500m以下とされ香りは無いとされます。写真2は今回植え付けの株です。

写真1 Den. setigerum
写真2 Den. setigerum

Dendrobium batakense

 本種はシノニム(同種名)としてDen. metriumDen. socialeとも呼ばれ標高1,100m – 1,400mの中温からクールタイプのデンドロビウムです。入手した株はスマトラ島の生息で写真1に示すように白色の1.5cm程の花を1-3輪同時開花し、リップに赤い網目模様が入るのが特徴です。写真2は植付けが終わったばかりの20株ほどの株で、高温下におけるマレーシアでの保管を心配したのですが入荷した全ての株は非常に良い状態でした。スリット入り深鉢にミズゴケクリプトモスミックスの植え付けで中温栽培です。写真1は2年ほど前に別株で浜松にて撮影した花です。

 国内マーケット情報を検索すると流通は余りなく、希少種か否かは不明ですが1件で4,000円が見られ、またeBayでは長短それぞれ1本、合わせて僅か2本の茎で3,500円と高額です。本サイトでは写真2の5-6本の長茎が植え付けられた1ポットを3,000円の予定です。

写真1 Den. batakense Sumatra
写真2 Den. batakense Sumatra

国内マーケットではあまり見られないフィリピンバルボフィラム3点

 下写真はそれぞれ植え付けを完了したフィリピン生息のバルボフィラム3種です。写真1~2はBulb. glebulosum、写真3~4はBulb. emiliorum、写真5~6はBulb. tenuifoliumです。Bulb. glebulosumは2008年登録のフィリピンAurora州生息の中温タイプです。昨年7月に本種名で入荷した株にBulb. inunctumがミスラベルで含まれていることが分かり、今回は別ルートからの再入荷となりました。Bulb. emliorumはパプアニューギニアとフィリピン生息が知られ高温タイプであり本サイトでは初入荷となります。またBulb. tenuifoliumは低地から標高1,500mに分布しますが今回の入荷株は低地生息株で高温環境が適しています。

写真1 Bulb. glebulosum
写真2 Bulb. glebulosum
写真3 Bulb. emiliorum
写真4 Bulb. emiliorum
写真5 Bulb. tenuifolium
写真6 Bulb. tenuifolium

Sumatra島からのBulbophyllum aeoliumとCymbidium lancifolium

 写真1~2は新たにSumatra島から入荷したBulb. aeoliumです。本種はBulb. kubahenseBulb. lasianthumなどと同様にバルブ間のリゾームが長く、植え付けには困ったバルボフィラムです。特にSumatra島生息種はBS株となると葉が大きくリゾームが固いため曲げてバスケットに収めることが困難で長い棒状の取付材が必要にになります。写真1は60cm x 9cm x 3cmの炭化コルクに取り付けたもので先端のバルブから30cm程の伸びしろを設けています。

 Bulb. aeolium自体は丈夫な種ですが、栽培がなかなか難しいとの意見をよく耳にします。この最も大きな原因はorchidspecies.comに記載されているようにその生息標高範囲が100m – 1,800mと広いことにあります。すなわちコールドから高温環境で育っており、これは低温から高温までの耐寒および耐暑性を意味するのではなく、その株それぞれの出所に応じた適温があることを示します。フィリピンのBulb. aeoliumは高温で良く開花するのだが、ボルネオ島由来は上手く育たないと言った原因はボルネオ島産はその標高から中温栽培が必要のためです。こうした栽培温度環境の違いは、同じ地域であっても標高が異なればその逆もあり得ます。この背景が分かるまでに数年かかりましたが、問題は株それぞれの出所がどの標高の株であるかがサプライヤーや現地栽培者に管理されていないため情報を得ることが難しいことです。解決は順化栽培過程において複数株を高温・中温それぞれの温度環境に置き、状態をチェックすること以外方法は無いように思います。

 一方、Bulb. aeoliumと似た花形状にBulb. uniflorumがあります。orchidspecies.comのBulb. uniflorumの記載を見ると間違いではと思われるのは、花写真のサイズが無調整であることは兎も角、標高表示が600m – 1,800mとされているにも拘らず高温マークのみが示されていることです。1,800mが高温とは考えられません。ちなみに昨年入手したボルネオ島生息のBulb. uniflorumは当サイトでは高温は適さず中温での栽培です。2つの種についての違いは葉形状が若干異なること(葉幅がBulb. aeoliumは広い)を2017年の歳月記で取り上げましたが、確定的なものではなく在庫株に葉形状の違いが観察されたことに基づいています。orchidspecies.comではBulb. aeoliumはココナッツの香りに対して、Bulb. uniflorumは嫌な(foul)匂いとされていますが、時折良い匂いがすると理解不能な表現となっています。画像検索から両者を形状比較すると花画像からはペタルのサイズが異なる印象を受けます。さて写真1~2の株ですが、2つの栽培環境でしばらく様子を見ての判断となります。花は大きくダイナミックであるだけにそれだけのコストをかける価値はあると思います。

 写真3~4は同じスマトラ島からのCym. lancifoliumです。本種は東南アジアのほぼ全域に生息し、日本ではナギランとして知られ、標高1,500m以上のクールタイプとなります。セパルペタルは薄茶から白色が見られますがサプライヤーからの花画像を見る限り入荷株は淡いピンク色のようです。

写真1Bulb. aeolium Sumatra
写真2 Bulb. aeolium Sumatra
写真3Cym. lancifloium Sumatra
写真4 Cym. lancifloium Sumatra

スラウェシ島(ソロモン諸島から修正)とソロモン諸島からのデンドロビウム2種

 昨年末から今年にかけてマレーシアより入手したスラウェシ島生息とされる2種類のデンドロビウムspが現在開花しています。写真1-6がそれぞれの花と株です。上段はDen. endertiiに似た花形状をもつDen. spで、Calcarifera節と思われます。これまでDen. endertiiはボルネオ島標高1,000m – 1,500mの生息種とされ生息範囲が比較的限られた地域であるにもかかわらず画像検索では他に類をみないほどの多様なフォームにこの種名が付けられており形状が定まっていません。下写真のリップ中央弁やSpurの形状、またカラーフォームに関して部分的に類似する花は多いものの全体として一致する画像は現時点では見られません。Den. endertiiがボルネオ島固有種とすれば、本種がスラウェシ島生息種とされる点からは新種とも考えられます。

 一方、写真4-6はDen. sororiumと思われます。Den. sororiumはスラウエシ島標高650m – 1,300mの生息種とされます。しかし写真4-6の種はソロモン諸島からの株であり、こちらも前記同様にDen. sororiumがソロモン諸島に生息する記録はこれまでありません。情報によればこれら2種はほぼ同一地点での生息とされます。一般論としてランの生息分布について南下説を考えればスラウェシ島とソロモン諸島に生息している同一種が、その中間に位置するニューギニアでの記録がないのは不思議で、今後ニューギニアにおいても生息が確認される可能性があります。

 写真1-3のDen. sp(endertii-like)は当サイトと同一のインドネシアサプライヤーから得たC. Stanley氏が東京ドームラン展会場に出品しており、この環境において8日間開花し続けていたことを考えるとかなり環境変化に強く花寿命も長いのではないかと思われます。一方で写真4-6のDen. sororiumは2-3日の短命花です。しかし12月入手以来、3ヶ月間で同一株に2回の開花が見られたことから短命花によく見られる通年での開花回数は多いようです。植え付けはいずれもバーク、ゼオライト、軽石(あるいは焼赤玉)と、ミズゴケクリプトモスミックスの2種類の植え込み材で様子を見ながら栽培をしています。いずれもネットからはマーケット情報がなく、国内初登場ではないかと思われます。

写真1 Den. sp (endertii?) Sulawesi
写真2 Den. sp (endertii?) Sulawesi
写真3 Den. sp (endertii?) Sulawesi
写真4 Den. sororium Solomon islands
写真5 Den. sororium Solomon islands
写真6 Den. sororium Solomon islands

新入荷種の植え付けと整理

 東京ドームラン展が終わりました。当ブースに来られた多数の趣味家の方々には感謝申し上げます。これから1週間程は温室の整理と、ラン展直前にフィリピン訪問で持ち帰った株とマレーシアから2代目に持って来て頂いた多数の株の植え付けがあり、その中には新種や現在のマーケットにはほとんど見られな原種も含まれこれらは順次本サイトにて紹介していきます。

 ラン展では希少種に人気があることは分りますが、今回意外であったことは罰ゲームに使う?のではと思われる程のハエの好きそうな強烈な匂いのする花が咲くコンニャク芋Amorphophallusや、またコブの塊のような蟻シダLecanopterisが好評で2日程で売り切れたことです。これらは2年前に共同出店していたフィリピンラン園が持ってきたものと同じで、若い人が買っていくのを見て試しにと半ば冗談のつもりで出品したものです。もう一つの出来事はミンダナオ島の新種の一つを展示していたところ、OrchideenJournalの編集者が来られ、この種名は自分の名前から付けられたもので、ネットで調べていたところ本サイトの歳月記にその品種名があり、現在日本にある筈がないのだが、どうして誰から入手したのかと質問に来られたことです。勿論、CITESや植物検疫ドキュメントは揃っていることと、市場性の高い新種の入手ルートは企業秘密で他人に明かすべきことでないことはご存知であろうと説明しつつも、一体ドイツではいくらで売られているのか伺ったところ日本円で3,000円程とのこと。それではあなたに敬意を払い日本では3,500円で販売しようなど、やがてランの話で互いに気が合い数冊のJournalを頂くことになり、本サイトの出品には珍しい種が多数あって興味深いので、ぜひドイツ・ドリスデンでのラン展に参加してはどうか、協力者を紹介するなどの誘いもありました。

 趣味家との栽培話や、こうした出来事の中で無事東京ドームラン展を乗り越えたものの、これから1週間程は、ラン展後に発送のプレオーダー作業が続き、今後もしばらく休む時間の無い日々が続きそうです。2か月後には再び海外買付が始まります。

東京ドーム世界ラン展2019

 いよいよ15日より22日まで東京ドームにて世界ラン展が始まります。昨日(13日)プレオーダーを含め発送のための梱包を終え、本日14日はドーム会場への搬送と設置となります。本サイトは1月のサンシャインラン展同様に2010年以降に発見あるいは新しく国内マーケットに登場した種を中心に150種程の野生栽培株の展示販売を行います。一方、ドームの気温や湿度の中でランを長期間品質維持することは大きな課題で、購入を予定される方にとって特に胡蝶蘭については初日からの3日間が重要な期間となります。本サイトにとって今年は、とりわけデンドロビウムやバルボフィラムなど直近の入荷が多いため順化処理を必要とする株も見られこれらは原則未掲載としており、こうした原種については順次本サイトで紹介しながら、順化状況と趣味家の栽培環境に合わせ浜松温室からの直送の予約を行います。一方、東京ドームラン展では原種とりわけ野生栽培種の入手や栽培方法等の情報交換を行う上で良い機会でもあり、原種愛好家の多数のご来場をお待ちしております。