マーケットにはDen. tobaense var. giganteumと称される株があり、当サイトでこのような変種は確認されていないことを再三取り上げてきました。giganteumと云う名称を耳にしてから数年経ちますが、未だにマーケットにこの名称が残っていることで、今回整理するために再度取り上げてみました。いろいろなネットの記述の中には以下のようなvar. giganteumについての言葉が見られます。
- NS(自然状態での花サイズ)は12cm位
- 新たに発見されたのは低地で標高500m-1,000mに生息。比較的高温栽培でも問題はないようで育てやすい
- 通常一般種は40cm程の疑似バルブ(茎)長であるが1m近くになるものがある
- 根元は以外とドライな環境が良い
- 暑さに強く寒さに弱い、山上げをして寒さで枯らした人がいた
- 1993年トバ湖北東部の湖岸でtobaenseが発見された。その中で特に大きなサイズ(OrchidWeb)
まず1項について、左右のペタルあるいはラテラルセパル間の幅が12cm位といった数値は、一般種であっても疑似バルブが太く充実すれば、花サイズは10cm-12cm長となり、NS12cmの株を変種var.とする分類学的根拠が不明です。またgiganteumとされる花を定規と共にそのサイズを示す画像がネット上には見られず、さらにそれらの画像の花の多くは葉長と比較してNS12cmに満たないと思われる株が多数です。giganteumはgigantic巨大との意味で、であれば一般サイズの1.5倍以上が想定され、一般種で12cmあることを考えると18cm以上となります。しかしサイズを定義した情報は見当たりません。
2項について、OrchidWebには6項の記載があり、この場所は最初にDen. tobaenseが発見された生息地で、その中の特に大きな花フォームがgiganteumとの解説があります。しかしサイズの定量的記載は無く、また低地生息種とは記載されていません。トバ湖水面は標高905mであり、一般種が生息する標高は750m -1,500mとされます。この標高は年間平均気温が25℃で、OrchidWebでは栽培温度はintermediate-warm (AOSによるとこの表記の夜間平均温度は12-21℃)としており、当サイトで云う中温から低温です。一方、マーケットにあるgiganteumとされる株は全て実生と思いますが、国内説に見られる低地生息とするのであれば、実生の親の生息地はどこか、具体的地名はどこにも明記されていません。。
3項について、当サイトでは200株ほどをこれまでの7年間で扱ってきましたが、スマトラ島のサプライヤーも疑似バルブが1m近くになる株はこれまで見たことはないそうです。もしそれほどの背丈があり、且つ花を付けた画像(花が無ければ株の同定ができない)が存在すれば見てみたいものですが。
4項と5項は低地生息種を前提とした推測と思われます。Den. tobaenseの一般栽培条件とは全く異なる環境としています(一般種であれば枯れる危険性が高い)。果たしてこのような環境にてgiganteumとされる株が元気に成長し、毎年花を咲かせているのが事実とすれば驚きです。その実態を示す情報を得たいのですが海外サイトを含め高温で上手く育っている情報は何処にも見当たりません。寒さに弱い??Den. tobaenseを山上げした結果、寒さで枯らしたとなれば昼夜を問わず10℃以下に長期間置かれたものと思います。しかし夏の山上げでのこれ程の低温環境は聞いたことがありません。原因は温度ではなく、かん水不足では。Den. tobaenseは根の乾燥を最も嫌います。伝聞とは云え、このような栽培に係る事柄が伝えられると、それを真似て枯らす栽培者が現れるかも知れず、確固とした実体験を経ての情報であるべきと思われます。
前記1-5項は全て伝聞とされており、ではそれを最初に語った人は誰か、あるいはサイト名は?それが分かれば、実体験を通しての話なのかどうかを直接伺うのですが。またこのvar. giganteumと名称した最初の人は誰なのかも現時点では分かりません。var.と称する以上、自然界において一般種とは排他的(異なる)地域での生息群がある筈ですがこれも分かりません。’誰かが言っていた’状態です。また商品名として誰が最初にこのvarの付いた名称をカタログに記載したかも不明です。一般種と比べて2-3倍近い価格で販売する以上、販売する側としては顧客から上記の不明点が問われた場合、説明責任があると思うのですが。giganteumとされる品種を購入して、もしNS10cm以下の花が咲いたら、それは栽培が下手からとなるのでしょうか?それとも返金?低地生息云々はgiganteumという名に尾ひれがついての作り話のように思えます。更にこの結果、高温タイプとなってしまった??のかも知れません。一方、選別実生では分類用語であるvarは付けられません。誤記となります。また実生であっても遺伝子的にそのサイズが継承され得る特性があれば株サイズに関わらず大きな花が咲く筈ですが、果たして入手された趣味家の株は、株サイズや栽培期間に関わらず全てがNS12cmほどになっているのでしょうか?株がまだ若いから、まだ環境に慣れていないから花が今のところ小さいとするのであれば、それはvar. giganteumではなく一般種です。言い換えればvar.を付けず単にgiganteumであれば、よく入賞株に付ける愛称と同じ意味合いになり、フォームや変種定義ではないので問題は無いのですが。
下写真は当サイトで現在開花中の野生栽培株Den. tobaenseのラテラルセパルのサイズを示したNS11cm (上段) およびNS12cm (下段)の画像です。いずれも今年5月入荷の順化後の浜松での初花です。当サイトではこれらロット株の価格は従来通り4,000円です。疑似バルブの長さはいずれも35cm程です。野生栽培株での観察では、花サイズはバルブの長さではなく、太さに大きく影響されます。これまでの栽培経験ではバルブが細い株は40cm程の長さであってもNSは8cm止まりです。またDen. tobaenseを今年の夏のような酷暑のなか、胡蝶蘭原種Phalaenopsis節と同じような高温環境(夜間平均温度25℃以上)に同居させていたら、間違いなく新芽は縮れ落ち、さらに根元を高温下で長期間乾燥させていれば、やがて枯れていたと思います。
根がしっかりと張り、バルブが太く充実していれば一般種であっても下画像が示すように10-12cmは普通です。それだけDen. tobaenseの花は株サイズと比較して不釣り合いなほど大きく、またその花姿も奇怪と云うか、ユニークで魅力的です。本種の栽培例についてはこちらのページを参考下さい。
