デンドロビウムSpatulata節のDen. taurinumは美しい種の一つですが、しばしば本ページで述べているように本種は特に移植時、細菌性の病気にかかり易く、順化には最大限の注意が必要となります。温度、湿度、通風、輝度などの環境条件に配慮しても歩留まりはランの中で最悪です。J. Cootes氏は著書Philippine Native Orchid Speciesで野生の本種の栽培は避けるべきと述べています。最近再びNegros島生息の野生栽培株が入り、如何にして栽培時における細菌病を防ぎ歩留まりを良くするか調べることにしました。
これまでの経験ではミズゴケと素焼き鉢の組み合わせではEstablishedされた株を除いて1年以内にほぼ全滅しています。そこでこれまではクリプトモス、コルクチップ、バークおよびそれらのミックスコンポストを植込み材としていました。その中ではクリプトモス100%とスリット入りプラスチック深鉢が最も順化成績に優れていることが分かっています。海外ではほぼ100%が大粒の炭でプラスチックバスケットに植え付けられています。現在国内ではこうした炭が入手できません。
クリプトモスの植え込み材の場合、株が落ちることはほとんど無いものの、入荷した時点での株の根は、それまでの取付材から剥がされ、出荷までの1-2週間はトレーに寝かせて根の周りをミズゴケで覆ったのみの状態で保管されるため、剥がす際の損傷によって根の半数以上が壊死しており、こうした状態の株を新たに植え付けても株を構成する太い茎の多くがやがて細菌腐敗病で倒れます。多輪花となる花茎をつける太い茎(疑似バルブ)を失えば本種の持つ華麗な風景を見ることが困難となり、比較的若い茎では輪花数がやはり少なくなります。
そうした経験を通して、Spaturala節のほとんどの種でこれまで行ってきたポット植えにその原因の一つがあるのではないかと思うようになりました。本ページでしばしば取り上げているように、自然での着生の姿勢や根周りの環境を知ることがまず必要で、それには剥がされた根の状態(平面的にビッシリと隙間なく平行に並んでいるか、それぞれの根がランダムに四方八方に伸びているかなど)や、根の伸長方向と茎の伸長方向との関係、さらに新芽の発生(成長)点を見れば凡そは判断ができます。結果として本種はほぼ垂直な支持木に活着していたことが分かります。また新芽が発生する成長点はバルブの1節上部にあることで常に上方に向かって株が増殖することが分かります。このためポットに茎を立てて植付けようとすれば古い茎元の1-2節は植え込み材の中に埋め込まれる結果となります。これでは古い茎はやがて枯れ、株は比較的若い茎のみとなります。よって茎数も少なくなります。そこで垂直取付材とするのですが、コルクやヘゴ板に、花茎を含め1.5m – 2mにもなる本種を取付けた株全体の姿や見栄えも考える必要があり容易ではありません。
そこで今回は太い枝を想定して長さx幅x厚みのそれぞれを60cmx8cmx5cmの炭化コルクに取り付けることにしました。それが下写真3, 4です。写真1, 2は本種の花フォームで写真2がNegros島生息種です。写真3で根の周りのミズゴケが新しい株とやや緑がかった株がありますが、取り付け後に新根がミズゴケの表面や空中に張った場合、これらをミズゴケで随時覆っているためです。追肥ならぬ追植えです。こうした植え込みから2ヶ月が経ちますが、これまで一株も落ちた株はありません。特筆すべきは、これまで1か月程で多くの株で壊死していた太い茎が、入荷時にすでに被病していたものは別にして枯れていないことと、植付け時から1週間ほどの間に起こる落葉もポット植えに比べて僅かです。新芽の発生も早期に見られます。写真4の中央の株の根元に、茎の太さが凡そ分かるように1.5cm幅のラベルを立ててみました。今後1年程の観察でこうした炭化コルクへの植え付けの良否を判断しなければなりませんが、現在のところは順調に成長しています。



