Dendrobium trichostomum

 orchidspecies.comでは栽培温度を冷(cold)、低(cool)、中(warm)、高温(hot)の4つに区分し、それぞれの区分の夜間平均温度を冷温では10-15℃(標高 >2,500m生息域相当)、低温14-18℃(標高 1,800-2,500m)、中温18-24℃(標高 1,000-1,800m)、高温24-30℃(<1,000m)と定義しています。一方、当サイトでは夜間平均温度を低温13-15℃、中温15-20℃、高温18℃の3区分としています。

 多くのランはこれらの1つの区分温度内あるいは2つの区分に跨っての温度で栽培可能ですが、3区分全範囲においての、順化と年間を通しての生息(成長)可能な原種はほとんどいません。同一種で生息標高域が異なり、その環境に適応進化した種は僅かに見られるものの、同一株あるいは同一地域に生息する株が、いずれの区分の温度下に置かれても成長を続けられることは異例です。この例外種の一つがDen. trichostomumです。この種は低温(Den. vexillariousDraculaなどの生息適応区)から高温(Phal. schillerianaVanda sanderianaの生息区)いずれの環境であっても、正しいかん水頻度や昼夜の適度な温度差があれば、新芽の発生や開花が見られ、栽培温度に起因するような成長障害や枯れる様態が見られません。いわゆる極めて温度に強い種と云うことになります。orchidspecies.comによると本種の生息域はニューギニア標高500-900mの丘陵林とされ、ニューギニアでのこの標高は高温で低温域ではありません。

 当サイトでは本種を2015年スマトラ島からDen. spとして入手しました。これがスマトラ島か、ニューギニア生息種(ニューギニア種もスマトラ島サプライヤーを経由することがある)かは未確認です。入手時は種名不詳であったため、当初は低温室と中温室に置いて栽培をしており、いずれの環境においても成長に差が無く、ここ2年間ほどは本種のマーケット需要が減少したことで大半をバスケットの寄せ植えで高温室にて様態を見てきました。しかしこの環境でも問題は見られず、さらに不思議なのは低温室と高温室のいずれの株も開花期が一致することです。花寿命が1か月以上と長いこともあり、開花はズレているものの開花期間が重複して、そのように見えるのかも知れませんが年に1-2回の開花を考えると、年間平均栽培温度が大きく異なる環境でのこの一致性はやはり不可解です。ちなみに開花期は主に冬季で、この時期の低・高温室の夜間平均温度はそれぞれ13℃と18℃です。

 ネット検索する限り、マーケットに見られる本種は全て実生(x selfやx sib)のようです。当サイトは全てが野生栽培株です。今回バスケットでの寄せ植えでは販売に適さないこともあり、また本種は半立ち性(新芽は上方に向かって伸長するものの、やがて茎が長くなるに従って垂れてくる性質))でポットの立植えは株が大きくなるとやがて茎を無理やり立たせる支持棒ばかりが目立ち、不自然となるため炭化コルクに植え替えを行いました。低温室の株はこれまでもヘゴ板付けとなっていたのでそのままです。写真1, 2は現在開花中の花で黄色と橙色が見られます。一見、Den. tiongiiに似た花序ですが、リップ中央弁の外周に細毛があるのが本種の特徴です。写真4は今回植え替えを行った一部を昨日(5日)撮影したものです。

写真1 Den. trichostomum
写真2 Den. trichostomum
写真3 Den. trichostomum
写真4 Den. trichostomum