Den. serratilabiumはフィリピン固有種でルソン島からミンダナオ島の標高500m – 1,200mに幅広く分布しています。その名Serrateが示すようにノコギリ状のリップ外縁形状が特徴です。昨年12月から発注をしてきましたが、3度目でようやく本物を得ました。本種の疑似バルブ形状はDen. victoriae-reginaeと酷似しており発注初回と2回目の入荷株は全てDen. victoriae-reginaeでした。しばしばDen. serratilabiumにはDen. victoriae-reginaeがミスラベルで混在するようです。バルブ形状からは同定が困難です。1昨年在庫が無くなったための新入荷ですが、当サイトでの本種の最初の入荷は2009年で、今年5月の入荷は10年ぶりとなります。
本種は基部が細く、次第に太くなる40㎝程の疑似バルブをもち、またそのバルブの途中からから発生する新芽のバルブも同じ形状で成長し下垂することから、ヘゴ板等の垂直板あるいはバスケットへの植付けが必要となります。こうしたバルブ形状は同じCalcarifera節のDen. boosii、Den.. chameleon、Den. yaegeriなどと共通しており、当サイトでは下写真1に示すように炭化コルク付けとしています。

下写真は写真2-3, 4-5, 6-7がそれぞれ同じ株で、3つのフォームを示しています。本種の一般フォームは写真2に示すセパル・ペタルが薄黄のペース色にそれぞれ5 – 6本の赤いラインが見られます。このラインは花によって濃淡があり、セパル・ペタル全てに明瞭に、あるい写真4に見られる、一部に薄く入るものなど多様です。こうしたラインの色合いを反映しているかのように、それぞれの蕾画像からは蕾の色から、開花時の凡そのフォームが推測できます。これまでの花の共通点は、写真5に見られるようにドーサルセパルの背面には赤味が見られることでした。
ところが今月、10年ぶりに入荷した株の一つにセパルペタルおよびリップが薄緑色一色で、全面また背面にも赤ラインのないalbaフォームのような花が開花しました。それが写真6の花です。写真4の緑味のある株も写真6と同じロットです。一方、当初高温室での栽培でしたが今期の猛暑に今一つ元気が無かったため中温室に移動してからの着花であることから、緑味の強い今回のロットはこれまでの一般フォームと異なり、やや高地生息の可能性を感じます。






一般種と花のカラーフォームが異なる例は、当サイトのDen. crabro、今年8月歳月記のDen. cymboglossum、また9月歳月記で取り上げたDen. dianae、など、デンドロビウムにしばしば出現しています。それらに共通する特徴は赤成分が抜け、緑味が増すもので、これらをこれまでalbaあるいはflavaフォーム様態として取り扱ってきました。しかし、厳密にはalbaあるいはalbescensは白色、flavaは黄色、aureaは金色を意味するラテン語で、写真6に見られるような緑色を指す言葉ではありません。
この背景として、ランの白色変異の花フォームにはしばしば緑色が混在することがあり、その緑色の割合が多い場合でもalbaとしたり、一方で、開花時は緑色気味であるものが、やがて薄黄色く変化する種があることから、緑色でもflavaとしていることがあります。しかし言葉と実態色とには違和感があり、緑色の割合が多い色フォームで、その色が開花時から落下するまで変化のないフォームにはalbaやflavaとは異なるラテン語での適切な色表記が必要ではないかと思います。そこで調べたところラテン語で緑色はvirensとのことで、今後はそのカラーフォームが一般色とは異なる色であり、且つ写真6のような緑色が保たれる場合には、f. vireneとするのが良いのではと考えています。