ボルネオ島、スマトラ島およびフィリピンに生息する本種の花(画像はW. Suarez氏から頂いたもの)は一般に白色ベースのセパル・ペタルに先端部がマゼンダ色で同色の小さな斑点が全体に散りばめられています。この色はPurple-pinkやPink-blue色など個体差があります。
1昨年フィリピンの趣味家から入手した一抱えもあるクラスター状の野生栽培株は、一般カラーフォームとは異なりセパル・ペタル全体がAerides leeanaのようなダークピンクで、所有者が付けたと思われるタグには種名の横に”wildroot Princess”の愛称が書かれていました。おそらくフィリピンのラン展での入賞株と思われます。このクラスター株が開花中であったため先月のサンシャインラン展に展示用として販売ブースに参考出品しました。
かなり年月が経ったのかクラスターを構成するそれぞれの茎の下部の多くが古くなって枯れ始めており、植え替えを行う時期に来たとの判断で、今月に入り思い切って茎毎に株分けをし、根も選定を行いました。結果12株に分かれました。下写真3がそれらで、これらの株の花は写真1, 2となります。フィリピン生息の本種は入荷が非常に難しいこともあり、これらの一部をこの機会に販売しようと順化に入りました。今年秋頃から販売を開始する予定です。



ここで本種に関して、いくつか気が付いたことがあります。まずAeridesはいろいろなカラーバリエーションがあることから、同じAerides属のAerides odorata、Aerides leeana、Aerides quinquevulneraなどとの違いを花色で判断することは難しく、ではどこで種別を行うのかが問題となります。デンドロビウムCalearifera節に見られるようなリップの基部から後方あるいは下方に伸びている距(Spur)が、Aeridesでは正反対の前方に曲がり伸びているのですが、Cootes氏によればAerides inflexaは、このSpurが直線的で真っ直ぐ前方に向かっている点を指摘しています。Aerides odorataやquinquevulneraは確かにSpurは湾曲気味で先端はやや上方に向いています。またAerides leeanaは前向きながら下方に多くが向いています。この説を是とすると、 orchidspecies.comのAerides inflexaの画像は、クローズアップの画像は良いとしても、Spurは湾曲気味でAerides quinquevulneraのようにも見え、一方、かく言うCootes氏の著書Philippine Native Orchid SpeciesにあるAerides quinquevulnera var. purpurataの画像はSpurが真っ直ぐ伸びてAerides inflexaの如くでAerides quinquevulnera らしくなく、さらに悩ましいのはAerides inflexaのフィリピン生息地はルソン島に対し、Aerides quinquevulneraはルソン島、Mindoro島、およびNegros島とされる一方で趣味家から得たAerides inflexaはそのタグにMindoro島と記載されており、こうなると整理がつきません。果たしてこうしたレベルの情報で種の同定をして良いのかどうか首を傾げたくなります。いわゆる可視形状による分類手法の限界のような気がします。
しかし、所有する種は写真1および写真2に示すようにSpur(リップ基部から花の前方に伸びている薄黄色の先の尖った突起)はAerides leeanaとは大きく異なり、またAerides odorataやquinquevulneraとも異なって直線的であり、まず間違いなくAerides inflexaと思われます。