4月から5月中旬は多くのランの植え替え最適期です。1昨年暮に入荷したReal Quezon州生息のPhal. schillerianaの1年半の栽培を観察し、その結果を踏まえ今回植え替えを行いました。Phalaenopsis属Phalaenopsis節(Phal. amabilis, aphrodite, schilleriana, stuartianaなど)は、自然界では40cmを優に超える大きな葉をもつ大株となります。多くの太く長い根は栄養を蓄え大株、いわゆる多輪花、となる必要条件ですが人工栽培では自然界とは異なり、ポットやヘゴ板等を用いる以上、そのサイズには制約があり、根張り空間を広く取ることは困難です。一方で、植え替えが無い栽培環境での胡蝶蘭の株寿命は精々5-6年程と云われています。当サイトではミズゴケの保水力が半減する前の、2年を目途に植え替えを行っています。
当サイトでは、葉や茎が下垂するランには、2017年以前のヘゴ板、杉皮板、またココナッツファイバーマット利用から、近年は炭化コルク付けの栽培が主体となり、Phal. schillerianaもその一つです。支持材はそれぞれ特徴があり、ヘゴ板は長時間の適度な保水力があり最も成長が良いものの、植え替えには根を切断することなく剥がすことは困難で、大半が切断されることで、1年間程は作落ちが起こります。杉皮板からの株の取り外しは、根を痛めることは少なく、杉板の薄皮ごと剥がすことが出来ますが、板にカビが生え易く、見た目に良くありません。ファイパーマットはミズゴケとの組み合わせで高い保水力が得られる反面、ヘゴ板同様に根がマット繊維に絡み、取外し作業は結構厄介で長時間かかります。一方、炭化コルクは、コストや加工性に優れているものの、前記に比べ保水力は弱く夜間湿度が十分(80%以上)得られる環境でない限り、乾燥が進みます。炭化コルで上手く育たない栽培の主な原因は、かん水による濡れた状態と乾燥とが数日間隔で繰り返されることです。常に湿った状態が必要な成長期にこれが日常的に繰り返されると、コルク取付での栽培は困難です。
下写真は炭化コルクに活着したPhal. schillerianaの取り外しから、新たな植え付け作業までを撮影したものです。写真1-3は植え替えをするにあたっての必須準備品です。写真1はウイルス感染防止用のリン酸三ナトリウム溶液で、鋏を含浸します。、写真2はコルクから根を取り外す際に傷つく根に、バリダシンとタチガレエースの混合薬剤を散布するスプレー。写真3はこれまでの35cm x 12cm長から今回用いる植え替え用の60cm x 12cmの炭化コルク(右奥)です。
写真4がこれまで植え付けされたコルクの表面を覆っていたミズゴケを強いシャワーで洗い流した後の状態。写真5は株上部の根の活着状態。写真6は根の一部が潜っていたコルクの表面を剥がし、根を掘り出した状態。写真7はコルクを貫通している根の状態を示したコルク断面。写真8は株右下の根のコルクに潜っていた数本の根(白と紫色)を取り出した状態。写真9は全ての根をコルクより取り外した株と、コルクの残骸。全ての根は切断無く取り外されています。写真10は、取り外した株を新たに60cm長のコルクに植え付けた状態。写真11は、これまでミズゴケやコルクに潜っていた部分(根の白と紫色)は新たな植え付けではミズゴケの下に、コルク表面や空中に出ていた根はミズゴケ上に乗せて1mmのアルミ線で留めた状態。写真12は同様に処理された他の株です。炭化コルク表面に活着した根は、根とコルクとの間にハサミの先端を差し込み、根の先端から順次基部に向かって剥がすことになります。またコルク内部に潜り込んだ根は、その根周りのコルクを剥がさなければならず、僅かな手振れでも根が折れたり、切れてしまいます。これが難なく出来るようになるには経験を積むしかありません。












こうした植え替え作業で重要な留意点は以下となります。
- 植え替えはウイルス感染を防ぐため、鋏は火炎殺菌又はリン酸三ナトリウム規定希釈溶液に10分以上含浸する。よって連続作業には数本の鋏が必要。
- それまでの取付材から外した根は傷ついており、病害防除のためバリダシン、タチガレエースなど薬品散布を行う、この際、ウイルス感染防除のため株毎にスプレー散布とする。
- 根は可能な限り切断しない。古い支持材の再利用はないものとして、根を最優先で残す。根を多く切断すると作落ちにより古いから落葉が始まる。
- 可能な限り新しい支持材は根張りの空間面積を広く取る。最下段右写真では株の上部に30㎝を超える伸びしろ分があるが、これは2つの目的があり、一つは根張り面積を広く取り、大きなサイズに育成するためと、より重要な点は、この広い面積全面にミズゴケを敷くことで根の周辺をより長時間湿らせ、乾燥を防ぐためである。