昨年1月にPurificacion Orchidから全蘭サンシャインラン展の売れ残りとしてRhyncostylis rieferiiを数株引き取りました。同年8月、その株の頂芽に円形の黒い斑点が数点発生し、その時点では斑点病の一種かと思いトリフミンを散布しました。その後、年末になってデンドロビウムSpatulata節の数種類の新芽を始め、散発的に他の数種にも被害が見られるようになり、よく見ると斑点には斑点内の葉肉がナメクジによる食害のように葉脈だけが残った擦れた様態もあり斑点病にしては不可解で害虫の疑いが濃くなりました。そこで深夜懐中電灯で見回って調べたところ、黒い5mm程のゾウムシのような長い口吻を持った虫がデンドロビウムの新芽に多数見つかりました。
そこで殺虫剤テルスターを散布した結果、虫は消え食害も止まったものの数か月後に再び同じ被害がデンドロビウム、パフィオペディラム、Aerides、Vandaに現れ、ゾウムシ類の害虫について当サイトと取引のある専門の方からも情報を頂き、その害虫がオオランヒメゾウムシであることが分かりました。
”沖縄県のラン園場に発生したオオランヒメゾウムシ” 大石、上地、他、九病虫研会報53, pp:111-113 (2007)によると、この害虫は東南アジアに広く分布しており、国内では1996年東京、1978年千葉県、1990年愛知県、1992年大分県で採取されており、海外においてはシンガポール、フィリピン、タイ、インドネシアなどで記録されているそうです。被害は主に新芽と茎でVandaは根も含まれます。本サイトではAeridesは花茎のみが食害されています。下写真上段は本サイトで捕獲したオオランヒメゾウムシで、下段はそれぞれ左からDen. lineale、Rhyncostylis rieferii、Paph. sanderianumです。この被害は極めて深刻で頂芽が写真下段のような病痕となれば商品としての価値がなくなり、新しい新芽を待たなければならなくなります。一つの救いはナメクジと異なり齧られた後からこれまで細菌性の病気が発生しておらず、いわゆる’傷’状態であることです。軟腐病のような細菌性の病気をしばしば伝染するナメクジとはこの点が異なります。
当初は前記したように殺虫剤テルスター水和剤の規定希釈の散布を行いました。これで散布後に成虫をほとんどを見かけなくなりましたが、かなり弱った状態ではあるものの1両日後に数匹の生存が確認できました。これら成虫はやがて死滅するのか再起するのかは不明です。前記会報に記載の成虫に対する殺虫効果としてアセフェート水和剤と合成ピレスロイド系殺虫剤が確認されているとのことで今年に入り、ピレスロイド系であるテルスターの1000倍希釈とアセフェート成分をもつオルトラン乳剤250倍希釈を混合して散布しました。それでも3ヶ月程経過すると再び成虫被害が観測されます。これらは室外から新たに入ってきたものの可能性が高いと考えられます。と言うのは夏季は昼間、温室の入り口のドアーを開放しており再発被害が常にその入り口周辺の株に多く見られるからです。
葉や茎を齧ることによって散布した殺虫成分が体内に入り効果が出る浸透移行性薬剤では後手に回ることになり、農薬が体に触れると直ちに効果が現れる即効性(ノックダウン効果)のある合成ピレスロイド系殺虫剤トレボン乳剤(成虫用に)と茎の中の幼虫には浸透移行性薬剤であるオルトランの2種類の殺虫剤を新たに混合して3月から10月の期間で3回散布することにしました。現在は収まっているもののランの成長期には2-3ヶ月間隔での散布が必要です。これら2種類の組み合わせによる植物への薬害はこれまでの3回の散布においていずれにも観測されていません。ちなみに病害虫防除には、薬剤散布を薬品ごとにそれぞれ行うことは面倒であり、最近では上記薬品と共にトリフミン(耐カビ系病害)、アグレプト乳剤(耐細菌性病害)を含め全てを混合して済ませています。薬剤耐性を防ぐため、耐カビおよび細菌性薬品はダコニールやナレートなど他の薬品と交替して使用しています。
猛暑の中、夏季の間は温室の外に株を出し栽培している趣味家も多いと思います。熱帯性の害虫と思いますが、温暖化によりどこから飛来するか分からない状況下においては、従来ならばナメクジ被害と思われた下写真のような症状が出たら、この害虫を疑うことも必要と思います。ナメクジ用防除剤では効果は無く、また数多い薬品の中で効果が確認されたのは会報によれば現状、前記の成分を含むもののみであり、害虫防除剤なら何でも良いのではと思われている趣味家の参考にと、この被害について取り上げてみました。





