植え替えの時期と炭化コルク

 4月に入ると東京以北でも多くのランの植え替え時期となります。本サイトでは3月半ばまではサンシャインや東京ドームラン展後の対応で多忙でしたが、先月末から例年の植え替えが始まりました。特にバルボフィラムや一部のデンドロビウムの中にはspのままで、入荷してから開花確認ができない株や現状維持状態の株も数百株あり、特にこれらの株を優先しての植え替えになっています。またデンドロビウムのFormosae節は2年以内でのミズゴケ交換を行っています。

 本サイトの栽培はほぼ全てが原種で着生種が多く、その特性上垂直面への取り付けが大半となり現在7割近い株が炭化コルク付けとなっています。東京ドームラン展では毎日のように炭化コルクについての入手方法などの質問を受けました。徐々に炭化コルクで栽培される方も増えていると思います。繰り返しになりますが炭化コルクの特徴や注意点は以下となります。

 炭化コルクは2-3cmのコルク片を、自身がもつ油性分を利用して板状に固め低温で炭化した無添加材で、その断熱・防音効果を利用した建材として販売されています。多数の隙間があり一般のコルクに比べて保水力が高いこと、炭化されていることでコケや害虫が付きにくいこと、またラン販売業者にとっては植え付けたままでも軽く、板形状であることから、多様な形状の一般コルクと異なりスペースも余り取らないことから箱詰輸送に有利であることなどが特徴として挙げられます。炭化コルクはポーランド製で25mmあるいは30mmの厚さを利用しています。最初の使用から6年以上経ちますがコルク片の接着が剥がれボロボロになる経験はこれまでありません。3年以上するとコルク裏面が白っぽく劣化する程度です。

 これまでの6年程の栽培を通し、ミズゴケとの組み合わせで根が炭化コルクを嫌う現象は取り扱った全ての種において見られません。殆んどの胡蝶蘭原種やバルボフィラム、また新しい茎が根元からでなくその一つ上の節から発生し株全体が上向きに成長するデンドロビウムなどに適しています。一方、こうした種への炭化コルク使用の最も基本的な要件は、栽培環境の高湿度化が求められることです。1日1回の散水が可能としても、夜間湿度が80%以上に維持できるかどうかに関わります。結論から言えばこの高湿度化が困難な環境では炭化コルクの利用は乾燥が進み栽培は困難です。より保湿性の高いヘゴ板やポットあるいはバスケット植えが必要となります。ヘゴ栽培も夜間の高湿度は成長に必須条件ですが、ヘゴ板/棒で成長が芳しくない環境でのコルクの使用は一層適しません。根をミズゴケで厚く覆うことで保水性を高めることは可能と思いますがコストの点で試したことはありません。

 炭化コルク材の初使用で注意しなければならないのは表面の洗浄です。コルク表面には粉末が多く付着しており、強いシャワーで両面のこれらを洗い流します。コルクの表面にソフトシャワーをした際、水が表面張力で丸くなって流れるようでは保水力は得られません。植え付けの際、薄くミズゴケを敷いてその上に根を広げさらにミズゴケを被せるか、直接根をコルクの上に広げてからミズゴケを被せるかは迷うところですが、本サイトでは生きた根が多く元気な株はコルクに直置きでそれから根をミズゴケで覆います。根およびその周辺を覆うミズゴケの量は細い根をもつ種はやや厚く、太い根の株は少なめにしています。株を留めるのは盆栽用1mm径アルミ線が最適で園芸店で得られます。これ以上の太さでは固すぎ根を痛め、細すぎても半年以内で錆びて切れます。糸ではしっかりと株の形状に合わせた押さえができません。またビニタイでは縛りが目立ちすぎます。1mmアルミ線も1年近くで切れますが、活着が進まずそれでミズゴケと共に株が落下しそうであればその際に追加で縛ります。

 2年程経過するとミズゴケは劣化して保水力が低下していきます。経験からは2年程度でミズゴケの植え替えが良いと思います。この場合、炭化コルクにつけたままの状態で株を傷めないように注意しながら強いシャワーを吹き付けミズゴケをコルクから洗い流します。2年もするとアルミ線はボロボロの状態となっているため、多くの場合でシャワーをする前にアルミ線をすべて外してからミズゴケを洗い流すことになると思います。この場合は、株の根元をしっかり手で押さえながらミズゴケを取り除きます。根がコルクの中や表面に活着している場合は株自体はそのままで新しいミズゴケで再び根を覆いアルミ線で巻き直します。多少の根がシャワー作業で切れても問題は無く、場合によっては根の一部は千切れますが株を取り外し新しい炭化コルクに替えることもできます。

 デンドロビウムでは取り付けから半年ほど経過すると、新根が覆っているミズゴケから突き出てきます。適当な長さに伸長すれば同じアルミ線で根の先端が板方向に向く、あるいは接触するように曲げて押さえます。Formosae節など種によっては、新根がミズゴケから出てきた段階で追加のミズゴケをそれら根が見えなくなるほどに被せアルミ線で留めます。これを行わないとやがて新根の先端は枯れ伸長が止まり、こうなると株が大きくなりません。一方、胡蝶蘭は自ら支持材に活着しながら伸長する性格があり、バルボフィラムも同様でミズゴケの追加は行ったことはありません。 

 AeridesやVandaの中サイズ以下で根が比較的柔らかい種も最近は炭化コルクを60cmほどの縦長にカットし、根をこの上に乗せています。目的は根に適度な湿り気を与えるためです。柔らかいと言ってもそれなりの大きさになると太く固い根が四方八方に伸びているため板状であるコルクに全ての根を取り付けることは出来ません。曲げられる範囲でできるだけ多くの根を乗せます。この乗せるというのは炭化コルクに薄くミズゴケを敷きこの上に根を乗せてアルミ線で留めます。根をミズゴケで覆うことはしません。根が伸長してコルクサイズを超えたり、離れたりする部分はそのままとします。所謂、根を空中に晒すには乾燥しすぎる一方、ポット植えは過水で根が黒ずんでしまうなどの環境での利用です。

 仕事等の関係で数日間留守にする場合の対応については、炭化コルクの下部1/3程が入る大きめの素焼き鉢を用意し、これにミズゴケを入れまた鉢受けを用意し、これに水を張っておきます。コルクの下部を素焼き鉢のミズゴケに埋め込むことで数日間はかん水の必要はなくなります。目的は炭化コルクの下一部を濡らしておくことですので、その方法はいろいろと工夫があると思います。

 以上が大まかな概要です。素焼きとミズゴケあるいはバークなどで今一つ成長が良くないとか上手くいかない人にとって、炭化コルクの利用は一考する価値はあると思います。いろいろな形状のランが炭化コルクに取り付けられた実物を見たい方は、池袋サンシャインシティ・ワールドインポートマートでの蘭友会主催のラン展(5月23日 – 26日 )に出品しますのでお越しください。